明治四十三年〔一九一〇年〕の夏、僕は湘南の海で同じ学校の先輩と衝撃的な出会いをして恋に落ちてしまった。
漱石が生誕の地の早稲田に建てた山房から生み出された名作「こころ」のオマージュである
早稲田大学に入った「僕」は入学して一年目が過ぎた夏休みに鎌倉の海岸で同じ早稲田の「先輩」と知り合い、その魅力に強く惹かれてしまった。先輩は新潟県の長岡の士族の出身で僕は岐阜県の大垣の士族の出身であった。明治維新でともに薩長とは敵対した藩士の子孫として似たような境遇であった。そして、決して公にはできなかったが密かに隠しながらも着実に育っていた同性愛の対象として先輩が僕のココロの大部分を占めてしまうほどになる。
うすうすそれに気づいた先輩は自分を理想化している僕に真実の姿を見せようとする。
神楽坂の旅館に二人で入って語られたのは親友に対して先輩が行った非道な行為であった。しかし、その話を聞いても僕はますます先輩に惹かれていくだけであった。
先輩の奥さんとも親しくなっていくなかで、やがて僕は早稲田大学を卒業する年を迎えることになる。先輩の力を借りてようやく卒業論文を書き上げて社会に旅立とうとするときに大垣の実家の父親の病が重くなって急遽、帰省しなくてはいけなくなってしまった。ちょうど明治天皇の病も重くなっていた時期であり社会全体が重苦しい雰囲気に覆われていた。先輩の身にも何か不吉なことが起こりそうな予感にとらえられながらも列車に飛び乗った僕は、まだどのような事態が起きるのかも、まったく知らないで先輩への同性愛への思いを強くするばかりであった。漱石が生誕の地である早稲田にかまえた漱石山房で名作「こころ」は生み出されていたが、その作品が極めて同性愛的要素に満たされていることに気がついたのは筆者だけだろうか・・・・・「こころ」のオマージュとして草創期の早稲田大学と明治という時代を鮮やかに描いた作品となっているのではないかと自負しておりますが読者のかたにはどのように感じていただけるのか、楽しみでもあり不安でもあります。
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