評価:★★★★★ 4.5
ここは〈自然の恵み〉と呼ばれる力を体現する能力を持った者たちが暮らす『東ガラット村』。
異能力を操って己の肉体を強化し、驚異的な身体能力を発揮する〈狩り人〉たち。彼らは山の獣と森の実りを日々の糧にしていた。
その中の一人、テンは狩り組の頭をしている若者だった。新たな仲間ミアイが加わってから二度目の夏を迎えたある日、彼らの縄張りに『聖地の王』と称される四本の牙を持つ巨大な猪が現れた。
テンたちはその猪を狩る事にしたが、老獪な獣の足取りは杳として知れなかった。狩り場に潜む獣王の居場所が掴めず、焦りを募らせるテン。しかし、ようやく発見した獣王は強大な〈恵みの祝福〉で彼らを窮地に追い込む。
小山のような巨躯を持つ『聖地の王』に、若者たちは死力を尽くして立ち向かう。狩り人の誉れ『王狩り』を目指してテンは仲間と共に奮闘する。★シリーズ本編1
*動物の解体描写があります。そういった内容を含む話はサブタイトルに表記してあります。狩猟や食肉に対して抵抗のある方は閲覧をご遠慮下さい。
**挿し絵は絵師様方(霧明さま、和泉ユタカさま、yamayuriさま)のご厚意によって使わせて頂いています。無断使用や複製は固くお断りします。
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:シリアス
展開:未登録
魅力的なキャラが織りなす異世界ファンタジー。しかし、そこには緻密で抜け目のない世界が存在していた。読み手を引き込む技術を駆使された文章力には脱帽した。私には絶対に書けない文章であり、世界だった。狩りの場面はそれこそ息を飲む。これを文章で表現し、それが自分の脳内でしっかり映像化されるのだ。そして思う。ここまでリアルに再現させ、かつ、登場する人物のなんと生き生きとしたことか!!世界が押し寄せる――その世界に自分も降り立っているような気持にさせられる。世界を肌で感じられる物語。さぁ、両手を広げ、心を広げ、その真髄を。自然を、命を体感せよ!!この物語の扉を開いたその先に、あなたを待ち受けるのは大いなる恵み、それなのだから――!!
ここは東ガラット村。異世界……と言っても、転生・チート・ハーレムの世界ではありません。厳しく、豊かな大自然の中で、自然の祝福と共に生きる狩人達の世界です。スピード感のある描写、雄大な自然の風景、誇り高い動物達、溢れる生命の躍動感。そして「恵みの力」と共に生きる人々の心の機微が織り成す人間ドラマは、まさに質の高い映画を大映像で観ているような気分にさせてくれます。いえ、傍観者としてただ観ているのではなく、この作品は読者をその世界に引き込み、そこに吹く風や狩人達の微かな息遣いをも感じさせてくれるのです。そして命を賭した過酷な闘いの中で、狩る者が狩られるモノに対して抱く畏れと敬意のリアルさも、この作品の数多い魅力のひとつであり、世界観の深みを形造っているのだと思います。この壮大な世界に吹く風を、貴方も感じてみませんか?
「異世界モノ」という、ありがちなテーマと思うなかれ。この作品はひと味違う。作者は獣や人の筋肉の構造、運動能力や物理的限界を熟知した上で、「恵み」でそれを少し凌駕する能力を持つ狩人と獣の戦いを描いている。自然界も実在のそれとは少し違うが、それも実際の自然をよく知ればこそ書けるものと分かる。それをテンポ良く、無駄なく(←ココ重要)、かつ緻密な文章表現で描ききっているところが凄い。なにしろ、変な改行が一切無いのに、本当に読みやすい。たしかに、魔王も勇者も、萌えも一切出てこない。だが、それ以上に興奮させられることは請け合いである。戦闘の息づかいや血の臭い、のどかな森の土や草木の匂い、旨そうな料理の味まで、殆ど目の前のことのように感じられる。触発された俺は、明日にでもナイフ持って狩りに出るかも知れない。(←違法)
主人公たちの縄張りに現れた巨大な獣。それはまさに人智を超えた偉大な存在であった。『聖地の王』たる獣を倒すため、己の夢と命をかけて闘いを挑む若い狩人たち。極限状態にさいなまれたり、男女間の淡い感情なども織り交ぜたりしつつ、彼らはついに獣と対峙するのだった――。物語や心理描写などがとても丁寧に作られています。そんじょそこらのファンタジーとは描写の厚みも世界観の説得力も段違いです。ご都合ファンタジーにうんざりしている方、ぜひ読んでみてください!