メタンダイバー 完結日:2015年10月9日 作者:山彦八里 評価:★★★★☆ 4.3トマス・マツァグ、木星在住、40歳。妻に出て行かれ、人型機動機械“メタンダイバー”を繰って細々と生活していた彼はある日、旧知のジャンク屋から記憶喪失の少女デルフィの世話を頼まれる。 話数:全37話 ジャンル: 登場人物 主人公属性 おっさん 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:未登録 展開:未登録 その他要素 キカプロコン 二宮杯 幼女 木星 注意:R15 残酷な描写あり なろうで小説を読む
遠未来、木星。かつての英雄には見る影もなかった。失意の果て、底辺の生活感に埋もれるトマス――が。無感情な少女との邂逅――そこから事態は動き出す。失意の理由。戦う意義。そして、世界の秘密。停滞から胎動へ、それから疾走へ、そして遂には遥かな飛翔へと。加速はどこまでも止まらない。疾る。馳せる。飛翔する。光速で紡がれる言語機関に魂までをも駆動され、遥か高みまで突き抜ける!無駄という無駄を削ぎに削ぎ、どこまでも軽やかに、しかし底知れぬ深みを匂わせて走る筆。熱いというか、猛ります。飛翔するフレイム・パターンから絶対零度のブリザードまで、登場人物がそれぞれの温度感を伴い、ちぎれ飛ばんばかりの勢いで、想いを、夢を乗せて駆け抜けます。そして燃えるだけ燃えきったあとに残るものは――それはあなたの眼でお確かめ下さい。
個人的にSF作品は良作になることが稀なジャンルだと思う。原因は異世界ジャンルなどと違って魔法だったりの無茶苦茶が効かない上、理論的にできそうな物で近未来、もしくは遠い未来を作る必要があり、期待されるレベルも高いからだと思う。(「宇宙」っていう未知のせいもあるが、大体ガ○○ムのせい)そんな難しい条件の中、この作品は機械や技術、歴史の設定がうまく構築されていて、個性を感じる作品です。そして何より失われた宇宙を夢見るおっさんの姿、絵なんかなくてもどんな光景か見えてくる。何と表現したらいいかわからないのだが、一つ浮かんだのは、「これぞSF」でした。
これほどまでに素晴らしい作品が、何故もっと多くの人に読まれないのか。拝読後、ブックマース数を見て思わず驚いた。 SFであるため、機械に関する用語も勿論登場するが安心して欲しい。マシンに疎い私にですら「どれ程の凄まじさ」か理解できる。それだけ読者に分かりやすく伝えてくれる筆力と勢いがある。SF初心者でも安心だ。 本来空を飛ぶための機械でないメタンダイバー。かつて誰よりも空に近づき、おちた男。 空を飛べぬと嘆きながら、どうしても諦めきれないいっそ哀れなまでに愚直な男。 過去に囚われた彼が過去を思い出せない少女を押し付けられた日から、世界は変わりだしていたのかもしれない。 そう思ってしまうほど、物語は次々と動いていく。そして主人公をはじめとした誰もが。 飽きることのない展開の速さながら粗をまるで感じない、凄まじい完成度。エンターテインメントの真髄とすらいっていい。
埋もれている作品の中に、時折、素晴らしい宝石が埋まっていることが有る。メタンダイバーはそう云う作品だと思う。硬質で無駄のない描写で描かれるメカは、イラストなんて無くたって十二分に格好がいいのが伝わってくる。懐かしいまでに古典な表現を使い、実に素敵で、格好のいい世界観を目の前に出現させてくれる。ああ、そうだSFってのはこうじゃなくっちゃ。そう思わせる力のある作品である。
酸素だってタダじゃないメタンと重金属の海に囲まれた木星の浮遊居住区。嫁に逃げられ青息吐息のおっさん。ニート同然。小汚いスーツを着て『それ』に乗る。 メタンダイバー。高重力を制御し、各関節を『落とす』ことで機動する人間型機械。人間をこのクソッたれな世界に封じた機械どもが質量弾代わりに叩き込んでくれる有難迷惑な贈り物。 遺跡の底からこんにちは。不思議な少女との出会い。嫁の帰還。 空に憧れたかつての戦士。夢のため。娘のため家族のため。そして自らの内なる炎をもって。己の凍った時を溶かす時が来た。 駆け抜けろ空へ。打ち砕け重力の軛(くびき)。 もう俺たちは一人じゃない。夢から。キミから目を逸らすことはない。 SFとエンターテイメント。汚いがほめ言葉なロボと美少女と嫁とおっさんの融合。娯楽作とはこういう作品なのだ。