海を渡るは恋の歌 完結日:2015年12月23日 作者:鵜狩三善 評価:★★★★☆ 3.9 人伝てに口伝てに、歌い継がれる歌がある。遠く広く海を渡り世界を巡るその歌の、誰も知らないその所以。 海は全部を飲み込んで、ただ静かに凪いでいる。 話数:全4話 ジャンル:ヒューマンドラマ 登場人物 主人公属性 未登録 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:未登録 展開:未登録 その他要素 一方的な愛情 天災 島 悲恋 最後に残るもの 歌 童話 注意:全年齢対象 なろうで小説を読む
古めかしい因習に縛られた小さな名もなき島。そこには海神に祈りと歌を捧げる美しい巫女がいる。己の心さえ自由にならぬ、すべてを神に捧げた乙女が恋に落ちたとしたら、果たしてそれは罪になるのだろうか。物語は静かに淡々と進んでゆく。私たちは透き通る海の青さと、はっとするほどに鮮やかな紅の色だけを、呆然と見つめるより他に仕方がない。信仰心の厚さゆえに繰り返される悲劇は、人間の愚かさと傲慢さに満ちている。それでも海神はすべてを愛するのだ。人間の醜さも美しさも、分け隔てなく等しく飲み込んで、時は静かに巡る。後に残るのはただ誰かを恋しい、愛しいと想う純粋な心ばかり。今日も風の音に混じって、優しい恋の歌が響き渡る。海の底ではいつものように、光を身にまとった魚たちがゆらゆらと泳いでいるのだろう。同じ場所でともに生きる喜びに心を踊らせながら。
これは人が口伝てに伝える歌の由来の話である。この歌には悲しい物語が隠されていたのだ。その物語の詳細は、小説本編を読んでもらいたい。私は、人はなぜ歌を歌うのだろうと思った。悲しい時、嬉しい時。人は歌を歌う。それは古代から続いてきたことなのだと思う。そして、人は歌に勇気をもらい励まさせる。この小説の歌は悲しい恋の歌だ。愛しい。愛しい。愛しくてたまらない。そんな彼女の歌が今日も海上に響いているに違いない。