源葉洋平は高校修学旅行の最中、呉の大和ミュージアムで10分の1大和模型を見た記憶を最後に意識を失う。目覚めると洋平の前には本物の戦艦大和と、旧帝国海軍によく似た軍装を纏った少女達がいた。
光文17年4月、太平洋を隔てた大国ヴィンランド合衆国との大戦の最中にある帝政葦原中津国。未成年の女性を除きヒトが生まれつき海に出られない世界で、海で戦う使命を帯びた少女達は海軍乙女と呼ばれていた。男なのに海でも平気な洋平は「異世界未来人」であると認められ、連合艦隊司令長官・山本五十子の特務参謀として葦原海軍の一員になる。
いつも元気いっぱいで甘い物が大好きな五十子、気難しいが戦艦の話になると夢中になる参謀長・宇垣束、昼夜逆転ひきこもりの先任参謀・黒島亀子、女の子同士の禁断の関係に目が無い戦務参謀・渡辺寿子など個性の強すぎる海軍乙女達に振り回されながらも、前線から遠く離れた連合艦隊司令部の日常は驚くほど穏やかに過ぎていく。
一方で、洋平の知る史実そのままに推移する戦争。
海戦ゲームマニアだった洋平は元の世界の知識を活かして早期講和を目指す五十子達に協力していく過程で、日常の裏側に隠された海軍の闇、少女達の過去、そして五十子の深い悲しみを知ることになる。
やがて訪れる、ミッドウェー海戦。
洋平は未来を変え、五十子達を救うことができるのか。
美少女架空戦記「山本五十子の決断」。2015/07/15 アルファポリス第1回歴史・時代小説大賞、大賞候補作に選ばれました。投票・応援して下さった方、まことにありがとうございました。
2015/11/20 第3回オーバーラップWEB小説大賞、一次選考通過しました。
2016/02/29 「カクヨム」で連載開始しました!
https://kakuyomu.jp/works/48522014251550003922016/04/15 第1回カクヨムWeb小説コンテスト、読者選考通過しました。応援して下さった皆様に、心から御礼申し上げます。
2016/06/23 第1回カクヨムWeb小説コンテスト、特別賞受賞しました!
2017/10/20 ファンタジア文庫より書籍化版を発売しました!
2018/05/22 「マグネット」で連載開始しました!
https://www.magnet-novels.com/novels/51627
山本五十子の決断
完結日:2016年6月2日
作者:如月真弘
評価:★★★★☆ 4.4
話数:全53話
時代:未登録
舞台:異世界
雰囲気:シリアス
展開:未登録
注意:GL
女性しか海に出ることができない「ラ・メール症候群」、じつは白鳥士郎さんの『蒼海ガールズ』と設定が一緒で、どうもそれをご存じない方がいらっしゃるようなのが、ファンとしては淋しいところですが、だからと言ってこの作品の価値が下がることなど全くありません。 現代から真珠湾後・ミッドウェー前に転生した普通の男の子が、持てる知識と誠実な行動で、なんとか帝国海軍を破滅から救おうとする。彼の知識は決してチートレベルではないし、仮想戦記にありがちな「敵がバカ」でも決してない。時代考証を無視した新兵器なんかも出てこない。限られた情報をもとに、女の子たちが精一杯の知恵と勇気を振り絞って、圧倒的優位に立つ大国に抗う。五十子をはじめ、魅力的なキャラクターとあいまって、ただただ手に汗を握って戦況を見守っていました。作風は全然違うけど、佐藤大輔さんの諸作品にも似た読後感を覚えます。絶対にお勧めします。
戦時中の日本と似て非なる世界に紛れ込んだ源葉洋平は、戦艦大和の中で目を覚ます。 その世界で男とは、海上で生存さえ困難な生き物だった。規律正しい中にも華がある少女、海軍乙女。一般人には乗る事さえ困難な戦艦を駆り、海上で合衆国と戦闘を重ねる。 作品舞台葦原国は、一度始めた戦争を勝敗ではなくどう終結させるか。周囲の期待をその細い双肩に一身に背負うヒロインたち。 一方で、自尊心を傷つけられ、心を病む者が後を絶たない現実社会。 その中でウェブラノベという大海に、PC一台で漕ぎ出した作者とヒロインたちが見事に符合する。 過去の偉人、在りし日の英霊としての山本五十六を敬愛した作者が、瑞々しい少女として新たな生を吹き込んだヒロイン、山本五十子。 彼女の戦歴には勝利の栄光ではなく、平和による皆の笑顔が一番映える。 この作品を読まれる方へ、かつてない爽快感と心の平穏があらんことを。
『美少女架空戦記』という響きから受ける印象とは裏腹に、決して派手とはいえない作品。それが『山本五十子の決断』だ。『ミッドウェー海戦で勝利すること』を主軸に展開する物語には、超大和型戦艦も新型空母も現時点では登場しない。そこにあるのは一人の少年の目を通して見る少女達の『現在』。艦隊司令部で賑やかな日常を送る彼女達が『海軍乙女』でいられる時間は長くない。そして軍人たる彼女達のすぐ近くにある、戦いと死。戦争の実相から目を逸らすことなく、戦争の中でこその輝きを描き出す、戦争をテーマにした物語の王道。海軍乙女はそれを具現化した存在のように思える。戦争の中で懸命にいまを生きる少女達と共に笑い、共に泣き、その戦いの行方を刮目し見守る。そして彼女達と同じ時を過ごす間に、いつしか『未来』の価値が見えてくる。一人でも多くの人に、この体験をして欲しい。これほど夢中で読んだ小説は久しぶりだ。
――女の子だけの海軍?これを聞いた時、なんてイロモノなんだと思いました。しかし実際に読んでみると、モデルとなった軍人たちの言動や経歴などが登場する少女たちに散りばめられ、しかも萌えとして成立しているという極めてバランス感覚に秀でた作品だと分かりました。いわゆる架空戦記でありながら、味方同士で足を引っ張り合う日本軍のひどさが描かれており、主人公たちはまず味方をどうにかしなければなりません。現代日本からトリップした主人公は敗戦という結果を知っていますが、それだけで納得してくれるほど組織は甘くなくて。第二次世界大戦という重々しい題材。現代日本への鋭い眼差し。それらは、自主規制に汲々とする今のライトノベルでは見られないものだと思います。ネット小説だからこそ、かつてライトノベルにあった輝きを再び見られるのでしょう。最新話が待ち遠しいです。
ハーレムだとしたら、これは戦争と政治と信念が紡ぎ出す旧くて新しいハーレムの雛型だ。少女達の心が描かれている。海軍乙女と呼ばれ戦争に身を投じた彼女達が、どんな風に生きて、何を思い、何のために闘ったのか。ときに熱く、ときに甘く、ときに冷酷に、身震いするような筆力で。主人公のことが唐突に好きになったり何でもしてくれたり無能で一方的にやられたりするテンプレご都合主義のキャラを見て気持ち良くなりたいなら、どうか他を当たって欲しい。そういう小説家になろうの主流に、「山本五十子の決断」は高らかにNOと答える。此処には人間がいる。倒すべき敵役の生き様でさえ、ときに読む者の胸を鷲掴みにする。少女達の叫びが聞こえてくる。例え全てが灰になって水底に沈んでも、貴方だけは忘れないでくれと。これこそが小説だ。これこそが物語だ。
どうやって渡来人がやってきたのかさておいて、IF世界のWW2を体験できます。個人的に突拍子も無いハーレムを作らされるんじゃないかと要らぬ心配もしてしまいましたが、それはどうやら心配しすぎたようです。そこまで胡散臭い話しは出てきませんし、登場人物も味の濃い人物が多いので実に面白いです。国名は女性風の国家などが点在している世界ですが、それゆえに主人公が作中でいかに特別な人間か再確認できるでしょう。
山本五十子は、いつでも笑顔を絶やさない明るくて優しい女の子。甘いお菓子が一番好きで、二番目に好きなのはお風呂に入ること。そんなごく普通の少女が連合艦隊司令長官として戦争を指揮する世界。五十子だけではなく、若い女性を除いて人が海に出られない制約のある世界で、海軍は敵も味方も10代の少女ばかり。突拍子もない設定なのに、練りに練られた世界観が放つ圧倒的なリアリティーが、ご都合主義を全く感じさせないです。「架空戦記」としての歴史や政治の下地は凄いんだけど、そこにいるのは史実の人物を性別転換しただけのキャラではなくて。等身大の女の子達が悩みながらそれぞれ必死に運命に立ち向かう姿に、心を動かされます。
若い女性しか海に近づけないという理由で女性のみで構成された海軍が第二次大戦を戦っている、という架空の世界に現代人の主人公がやってくるという話です。ただ海上でドンパチやってるだけでなく、その搭乗員である女の子を始め、その中に紛れ込んでしまった主人公を交えての笑いあり涙ありな人間ドラマが丁寧に描写されているのがポイント。もちろんのこと、現場の行動を制限する『正しい』日本軍のお偉方の指示もいい具合にいやらしく書かれており、怒りと悔しさを抱く主人公達に共感を覚えること請け合いです。文中にたびたび登場する当時の日本文化などの描写も相まって文章の光景が眼に浮かぶような素晴らしい本作は、じっくり腰を据えて読むべき名作である、と心から言うことのできる一作になっており、続きが非常に楽しみです。重厚で面白い架空戦記をお探しの方に、是非どうぞ。
第二次大戦で日本軍の架空戦記なんだけど、男はなかなか登場しない。チート兵器や未来の日本も登場しない。いわゆるあべこべ世界に近いのだが、違和感や無茶を感じさせない設定がとても読みやすく、しかもちょっとクスッとするようなネタが随所に挟まれており、軍事一色の作品に食休みのような息抜きがされているので読みやすく、オマケに笑いが主張しすぎず、絶妙なバランスが構成されています近年の架空戦記では無視されがちな登場人物の心理描写や過去の因縁、日本軍の複雑かつ意味不明な組織体型からくる障害、ヒロインが抱える巨大な苦痛と主人公の成長が圧倒的文章量でしっかりと書かれており、私個人としてもとても勉強になりましたそれだけでなく、当時の日本の文化風習、庶民生活や軍人の言葉遣いなどが現代っぽくなく、机上演習の話を読んでいるときなんかはその光景が安易に頭に浮かび、まるで見てきたかのようなリアリティを感じました。