評価:★★★★★ 4.5
「まるで恋心のようではありませんか」
わたしの耳元で河童がささやく。河童の茶髪の頭に皿はない。背に甲羅もない。今日も今日とてイケメンに変化しているので、始末に悪い。
人生の目標もない。恋愛するだけの熱量もない。過去の失敗で、人生につかれていたわたしの前に現れたイケメン河童の清水(しみず)。清水の求愛に及び腰になるわたしには、恋愛のトラウマがあった。
清水は彼女の気持ちを振り向かせることができるのか?
感じの良いイケメン河童とわたしとの、もだもだした大人の恋愛模様。無断転載禁止。無断複製禁止。
「翡翠堂じゅんじょう奇譚」「ひえた毒」と、三部作のひとつとなります。独立した物語りとしても読めます。
小説宝石新人賞999作品中35作まで残りました。上位3.5%まではいりましたが、最終候補落ちとなりました。同じく小説宝石新人賞一次通過作で「荒れ地に立つ蛇」があります。
話数:全14話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
その他要素
注意:全年齢対象
異類婚姻譚は好きですか?人間と妖怪のように、違う種族同士で恋をするお話のことです。異類婚姻譚というと、どうしても、種族の違いから起こるアレやこれやでの悲恋を思い浮かべてしまいがちで、悲しいお話が好きではない方のなかには、異類婚姻譚というだけで敬遠される方もおられるかもしれません。だけど、こちらのお話は、とってもほのぼので、ときどき切なくて、そして最後は暖かく。もちろん、よく読むと、作中に出てくるもう一組の夫婦が示唆するように、種族間の違いによる切ない未来はあるのですが、でも、そこはあくまで示唆だけにとどめて、物語は希望のある未来をうつしたところで終わっているので、読後とっても幸せです。*ある日、町内会で出会ったイケメンに突然打ち明けられました。「実は、僕は河童です」そこからはじまる、とてもとても暖かな異類婚姻譚。冷たい雨の中、包み込んでくれる体温の物語。
ある日、共に町内会の会計係をしていたイケメンから「実は、僕河童です」と、告げられた三十二歳の大人の女性が主人公だ。そんな告白をされた主人公は河童と友達の関係になる。 この河童上手く人間世界に溶け込んでいて河童には見えないが、ふしぶしに隠しきれない河童の本能が見え隠れしている所が実に可愛らしい。主人公の「品川」という名字を聞いて「品のある川」などという発想は河童しかできないであろう。彼の本名も実に河童らしいものだ。この小説は、河童と人間の奇妙な恋を淡く描いた小説である。それはまるで風鈴が風に鳴く音のようだ。人間と河童、どちらが風鈴でどちらが風だろうか。この風に恋しいと鳴いて良いものだろうか。風鈴に風を送り込んで良いのだろうか。そんな葛藤が見え隠れするのだ。人も同じで欠けたものを求め続けているに違いない。夏がやって来た。風鈴の音色を聞きながらのんびりと読んでもらいたい小説だ。
目の前のイケメンが河童だと知ったらあなたはどうしますか?人と妖。決して交わることのない二つの種族。しかし恋心は人も妖も同じ。想う心は現でも夢の中でも続くのです。透明で情熱的な河童の言葉は、物語を外から見る読み手の胸にも響きます。特に「十夜」からは圧巻です。どうか二人の恋を覗いてみてください。傷つきながらも清く澄みわたった想いがここにあります。
「僕は河童なんです」 そんな事を急に言われて、あなたはどうしますか? 鼻で笑うか、ノッて話を合わせるのか。でも、河童を名乗った人が、本当に河童で、貴女を好きで必死に伝えたとしたら、どうですか?人だ妖だと関係なく、惚れた腫れたは、誰もが持っている特権。強く見詰めるその瞳を。強く掴む、力強いそのてのひらを。貴女はどうして振り払う事が出来ましょうか。恋し恋しと風鈴が鳴り、貴方の気持ちを伝えてくる。風鈴を鳴らす風は、きっと甘やかで優しくて。情熱的ですよ。だって随分と綺麗な水に住んでいた澄んだ河童だから。
日常の中に妖が混じる不思議な世界。彼らは確かにここにいるのに、その姿は人の姿に溶け込んでいて、少しばかり見ただけでは誰も気がつかない。人であれ、妖であれ、そして彼らが望む望まぬに関わらず、世間というものは端的に区別する。大多数の人と異なる、それだけでこの世の中は思った以上に息苦しい。美しく優しい心を持っていながら、ただその「出自」ゆえに恋をするのに臆病になった青年。彼は傷ついたいくつかの経験の末に、強く求める相手であればこそ、二者択一の選択を突きつけるようになる。どこかそっけない態度を取り続ける女性。彼女は誰にも言えない秘密を抱え、けれど誰にも悟らせることなく静かに前を向いて生きている。物語の結末に、あなたは穏やかな幸せを噛みしめることになるだろう。相手の痛みも弱さもすべて受け入れられるのは、傷ついた経験を持つ大人だからこそ。甘くそれでいて爽やかな清々しい恋物語である。
こちらのお品は、大人の恋愛を描いたものです。ですが、ただの恋愛話ではありません。人と河童の織り成す、爽やかでときどき赤面ものの素敵なお話です。読んでいると、さまざまな夏の気配を感じることができます。夏祭りでそぞろ歩く川べりのような心地よいわくわく感、木陰で感じる風のような思いがけない爽やかさ、夜明け前の群青の空のような静かに沁み入る美しさ、夕立ちのあとの雨の匂いのような表現しがたい好ましさ、夜中に咲くカラスウリの花を見つけたときのような密やかな感動。ほかにも、あなたの思い出の中にある夏が、物語の端々に感じられることと思います。あ、ちなみに、河童とはいえ頭に皿のないイケメンでございますから、そこは安心してお読みください。長いお話ではありませんから、寝苦しい夜になどちょっと一読、というのもおすすめです。暑さの厳しくなるこれからの季節にぴったりな、涼やかな恋物語はいかがですか。
なぜ一作品に、ふたつめのレビューを書くのか?これは羞恥に近い。恥を告白するようなものだ。あれは先走った若書きだった。完結を待てばよかったのだ。それをできなかった私の未熟を恥じる。読者諸賢はまづ、その圧倒的世界観に持っていかれる。DOPEだ、シュルレアリスムだ……たしかにそう、そのとおり。だが最終二話で、そんな言辞は軽くなる。それだけではないのだ。むしろ、そちらのほうが重要だ。最終二話、私の視界は滲む。作品の美しさに、おのれの不明に。