評価:★★★★☆ 4.4
いわゆる「自費出版系」の出版社で、一般人の書いた原稿を書籍にする仕事をしている派遣編集者の「私」は、次々に訪れる「難敵・素人物書き」との戦いに明け暮れている。作家になりたい人必見、アマチュア作家たちの「書き手としての失敗」をあげつらいつつ出版や文学の世界の現実を語る文芸コメディー。
話数:全13話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
自費出版をすることがメインの出版社で働く主人公が、次々に来る原稿に指摘をするお話。フィクションのはずなのに、「こんな文章ありそうだな」「こんな人いそうだな」と思えるところが多いです。また、楽しく読みながら、自分の文章にも役立つアドバイスを得ることもできるでしょう。そして、それぞれの話がどれも独立していて、各話ごとに楽しめます。是非読んでみてください。
あなたは一度くらい、「自分の小説が書籍になって欲しい」と夢を抱いたことはありませんか?これは、とある自費出版社で働く編集者のエッセイ。自費出版なので、拙い原石のまま原稿を持ち込まれるらしく、編集作業は、前途多難のようです。出てくるお客様たちは、これまたどの人も個性的で魅力の一つ。どんな風に手直ししていくのか、編集者のツッコミも冴え渡ります。が、しかし!自分の作品はここまで酷くないと、笑っていられるのも束の間!この間違え、説明不足、人称…etc 自分もしてるよな…って気づいて青ざめてしまいます。それでいて読みやすくて、嫌味な感じもなく、愛ある接し方で、世界に引き込まれ一気に読んでしまいました。小説講座を受講したかのような、満足感!私も適切なセルフツッコミをマスターして、自分の小説を直したいと思います。いや、でもやっぱり、私の専属編集者様になって下さいっっっ!!!
零細だけれど良心的な自費出版社に勤める、編集者の私小説。目玉は、一癖も二癖もある『作家になりたい人たち』と、彼らが書くトンデモ文章、それに対する『私』の鋭いツッコミです。作中のトンデモ文章がどの程度スバラシイかというと……『その文章はとてつもなくヘタで私には意味がよくわからなかったため「よくぞこんな文章を考え付くものだな」と私は却って心の底から感心してしまい「はぁー」と大いなる溜め息を私の心の底から出したのだった』などと私が真似っこした文章の10倍はトンデモナイのです!この不条理なトンデモ文章だけでも読む価値があります。そして、クスクス笑いつつ読んでいるうちに気付くことでしょう。作中の『私』による『上から目線』な数々のツッコミが、実は『作家になりたい人』への愛あふれるエールであることに。笑えて、ためになって、心が温まるストーリー。ぜひご一読をお勧めします。
これほど面白いお仕事小説、そうありませんよ!自費出版を請け負う出版社で働く主人公のところに持ち込まれる「困ったところ」満載の素人作品たち。そのままでは本にできないそれらに対し、主人公は優しく、作者たちが少しでも満足できる本になるよう、アドバイスしたり、書き直したり。困った文、を具体的に提示して、なぜ読者に届かないのか、をわかりやすく示してくれるので、これから文章を書く人は参考書として一読しておく価値もありです。でも、この小説の真骨頂は、コスト意識のない主婦、己の半生をまとめようとする老婆、自意識が高すぎるニート、センスはあっても日本語力と自信の足りない青年…ひとクセある素人作家たちの、それぞれの原稿から見えてくる人間ドラマの面白さでしょう。出版界でお仕事をしていなくては、これは絶対に書けないと思える、丁寧な人間観察+仕事のリアリティ。読まないと損する一作ですよ。
一話目から引き込まれる。主人公は自費出版会社の編集者。寄せられた原稿のへんてこな文章を見て、どう直せばいいか考え作者に提案する。なぜなら本になった際、多くの人の目に触れることになるから読んでもらえる文章にしたい、という思いがあるからだ。一話目では、こんな部分があった。『私が下を見ると、そこに死体がばったり倒れていた。思わず悲鳴がしたが、すぐに口を押さえた。死体はすごい血糊で床にまで流れ、私は一瞬踵を返して逃げていった。』この文についてどこが変で、どう直したらいいのかが説明されている。原文を書いた作者は納得しなかったが、客観的に見ている読者(私)は、自分もそういうことをしていないか考えることができる。説明しすぎる文、一人称・三人称視点の違い、本物を知らない人の謎表現(井戸からホースで水を汲むets)などが書かれており、自分の文章を見つめなおすよい機会になるかもしれない。
『私が下を見ると、そこに死体がばったり倒れていた。思わず悲鳴がしたが、すぐに口を押さえた。死体はすごい血糊で床にまで流れ、私は一瞬踵を返して逃げていった。』この文章を読んでどう思いますか?いいじゃんと思ったあなたは自費出版できます。ダセェと思ったあなたは自費出版する才能があります。ここをこう修正するべきだと思ったあなたは自費出版して成功する可能性があります。自費出版をする時に重要なことはパートナー選び。つまりどのような編集者と巡り合うかです。つまり! この作品を読んだあなたは素晴らしい編集者たる斎藤さんを知り得たことになります。これでいつでも自費出版ができる!?いや、あわよくば作家デビューも夢じゃない!本作を読んで勉強しましょう。
本作の主人公「私」は、自費出版系の出版社で働く派遣編集者。日々、素人物書きが書いた原稿モドキの書籍化に向けて奮闘します。そんな「私」が相手する作品群は、並大抵のモノではありません。怪しげな専門用語が羅列された「闘病記」。なにを言いたいのかサッパリ分からない「恋愛小説」。読解困難な「スペースファンタジーポエム」などなど。ときには、「私」は作品の圧倒的な破壊力に打ちのめされてしまいます。「アホなことを言うんじゃない」と顧客である著者を叱責することも、たまーにあります。本作では、そんな「私」の編集者ライフがコメディタッチに描かれています。物語が妙に生々し……リアルだと思ったら、作者様は出版業界に造詣が深いお方のよう。なるほど、納得致しました。最後にひと言。「感想欄」の作者様の回答は真摯でありながら軽妙で、本作と同じように楽しく読めるのもスバらしいです!
これは自費出版専門の零細出版社を舞台にしたお仕事小説であり、コメディです。 自費出版。そこは自らの作品を身銭を切ってでも本にしたいと望む人々が原稿を持ち込む夢の舞台……かと思ったらありゃりゃ? 誤字・脱字はほんの皮切り、構成も説明も崩壊し、物語は読者そっちのけで斜め上へと飛翔する。そして出版は会社にとってはあくまでお仕事、派遣社員である「私」は厳しい予算と納期を背負いながら作品と、時には書き手と向かい合う。武器は国語力とツッコミ力と交渉力、そして小説への愛だ! 出版業界の内情をチラ見させてくれつつ、クセがありすぎる素人原稿の数々を頭を抱えながらもちぎっては投げる「私」のユーモアあふれる頑張りに笑い、同情し、最後はスカッとしてください。
本当に面白い。読み終わった時、思わず手を打って空を仰いでしまったくらい。何度でも言いたい、面白い!!この作品は大部分がコメディだ。自費出版社の編集者である主人公が、日々、作家になりたい素人の悪文と格闘する様子がコミカルに描かれる。その主人公の言葉に私自身にも当てはまって、冷や汗をかくことがあるのもご愛敬だ。けれど、そのコミカルの中に、人それぞれのドラマがある。だって、登場人物は強い思いをもって本を持ち込んだのだから。中でもお勧めしたいのが第四話。老婦人の持ち込んだ作品が素晴らしい。淡々とした自分史なのに、私も、主人公と同じく涙をこぼしてしまった。そのような、『技術がない名作』や、あるいは『なんだこりゃな悪文』を考え付き、きれいに山とオチを作る作者様の技量に脱帽するとともに、私自身も大いに学ばせてもらった。僭越ながら言いたい、小説家になりたい人はみんなこれをを読め!!
小説を書くなら、まずはじめに本作を読みましょう。編集者である主人公が頭を抱えてしまうような小説と出会っては、世間へお披露目できるまでにレベルアップさせます。小説の編集者という立場で、珍妙な文章をバシバシと斬っていくのです。その奮闘っぷりがとにかく面白い。編集という仕事の裏事情がみえるのも勉強になります。文章の添削を職業とされている方が書いているため、本編は理想的な読みやすさです。加えて、ストーリーの起伏。ラストのカタルシス。決して飽きることはありません。気がつけば最終話にいるでしょう。小説を書いたことがある方なら共感いただけるかと思いますが、作中作の過ちは他人事ではないものばかりです。……笑えない。……耳が痛い。もしあなたが小説を書いているなら、きっと改稿したくなってしまうことでしょう。小説を書いている方、書こうと思っている方に強くおすすめする一作です!