評価:★★★★☆ 4.3
十二歳で故郷を飛び出し十六年戦場を渡り歩いた傭兵オルソは、戦に倦み、平和な稼業に就くべく母国へ舞い戻った。庭師になることを希望し役所の窓口へ並んだところ、手違いが重なり幸か不幸か現在王の大宮苑造営を総括する天才造園家の元へ弟子入りすることになる。造園家グラーブは暗い男で通常連想する庭師からかけ離れた人物であり、かつ彼は造園家であるだけではなく……根暗な造園家と物怖じしない元傭兵の弟子が交流する物語です。若干イタリア風味の中世~近世ファンタジー。過去この作品名・作者名で同人誌にしたものを掲載しています。キーワードに指定しましたが伝奇・時代小説からは逸脱しているかもしれません。その旨ご了承ください。
話数:全15話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
更新回数でランキングのポイントを荒稼ぎする雑味の多い作品が増えてきた。検索しても定番の作品以外に良作を見つけ出す機会がなかなか巡ってこない。カジュアルを否定はしないが、ペラペラの世界観とか、凝りすぎて最初からクライマックスな「設定」押し「だけ」とかは疲れる。と、お嘆きのアナタにオススメ。短いので2~3時間で読み切れます。この作品はファンタジー(ネタやアイデアの一発芸)ではなく、物語(情動)を軸にしています。魔法もチラッと出てきますが、無双してウェーイ! ってのはありません。傭兵(壊す)から足を洗い、庭師(作る)になった主人公の物語です。ああ、コイツの立場ならそう判断するのも「ありえる」なと、薄味と雑味を勢いでごまかしたりが無いので、ストレスなく読めます。読後に思ったのは「起承転結のしっかりとした高い完成度」ですね。
日本人の美意識として「侘びさび」という言葉があるが、造園家師弟の人生を描いた本作からは、その「侘びさび」の「さび」を随所に感じる。「さび」には静けさと孤独を表す「寂」という意味やモノが古びて物質が変化していく「錆」という意味があったように記憶しているが、この作品の中心人物グラーブはまさに孤独と長い年月に「さび」てしまった人物であり、彼が主人公オルソを弟子にしたことがきっかけとなって、銅が錆びて緑青を生むように寂しくゆっくりと変化していく様が今作品中では描かれているように思う。そしてオルソもまた最後の場面で、師グラーブが変化するきっかけとなった「生命」という命題に向き合う所で本作は幕を閉じる。読後に感じる厳かで静謐な雰囲気の余韻は、いい意味でなろう小説ぽくなくて、個人的に好みの一作です。