評価:★★★★☆ 4.2
西洋の文化が大量に流入し始めたばかりの極東の国。
文化は好むが異国人はまだまだ珍しい。
そんなご時世に、ある薄暗いライブハウスに奇妙な異国人ジャズバンドが現れる。
音楽をたしなむ青年:伊達は彼らの音楽を聴いたあるトランペッターが狂死したことから、彼らの存在を知る。
曰く、悪魔の音楽を奏でるものども――と。
話数:全20話
ジャンル:現代ファンタジー
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
〈悪魔の音楽〉を奏でるというジャズバンド・オーリム。機会を得てオーリムの末席に加わることになった伊達は、彼らの音楽への情熱にあてられながら、才能を開花させてゆく……のだが。時に激しく、時にひそやかに、端正に、狂おしく、恍惚と歓喜の声を上げる楽の音。ひたひたと足元に忍び寄る不穏な気配。「全ては音楽のために」との囁きとともに伊達に突きつけられた、恐るべき選択肢。バンドメンバーの過去を、オーリムの真実を知った伊達が、おのれの道を見出し、真っ直ぐに進んでいく姿に胸が熱くなりました。物語そのものにも心が惹かれましたが、それと同じぐらい文章にも心を揺り動かされました。まるで本当に音が聞こえてきそうな演奏の描写。音を読み手の脳内に呼び覚ますように描き出すばかりか、音楽に対する想いや思想をも含めた「音」の一切合財を、これでもか、と読み手に突きつけてくるがごとき文章は、鳥肌ものです。
室木柴さんは、異能の書き手である。一見至極まっとうなヒューマンドラマの枠の中に、「お、おい!」と悲鳴を上げてしまうようなモチーフを投入できる人なのだ。先行する長編「天使の血管」からその萌芽は確固としてあった。 本作「白痴のダンテ」では、その異能がさらに輝きを増している。悪魔の音楽と評される、孤高のジャズバンド『オーリム』に加わったギタリストの目を通じて描かれる、音楽家たちの妥協を知らぬ自己探求の姿。だが、その華麗なつづれ織りは、次第にどす黒くおぞましい恐怖に浸されて染め上げられていく。 芸術に携わるもののデーモニッシュな側面を端的に具象化した物語、と言ってしまうのは簡単。だが読んでみればそんな簡単なことでは終わらない。異形に隷属しているかに見えてなお『オーリム』が生み出す音楽は天上のごとき輝きに満ちている。 美と恐怖の円環の中で出口を探すダンテは、我々読者自身の姿でもあろうか。