評価:★★★★★ 4.5
田螺(たにし)に似た殻を背にもつ、左巻きの舞舞螺(まいまいつぶり)。通称ひだりのつぶりに寄生された者は、脳を支配され20歳までに命を落とす。変わりに得られるものは、つぶりの創りあげた仮想空間での、苦痛のない甘美な夢を見続ける人生だ。
14歳でつぶりに寄生された慈浪は、初恋の女性とそっくりの擬態をとるつぶりと共に、海原を走る汽車で夢路を辿る。「あたしの全てはジロのもので、ジロの全てはあたしのものだ」捕食者の寄せる恋情と、補食される少年の複雑な思いが交差する。無断転載禁止。無断複製禁止。
本作は短篇「夢路のつぶり」のサイドストーリーです。本作のみでも読めます。
参加できなかった『卅と一夜の短篇』の第9回のお題が、隠れテーマで書かれています。
話数:全3話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
伊藤潤二の『なめくじ少女』岩明均の『寄生獣』『未熟なたまごを持つふたり』を読んで、この二作が思いうかんだ。けれど、そのどちらともちがう。異質、唯一無二の世界。耳孔から入りこんで、宿主の脳髄と記憶を啜る寄生生物。流しこまれるあまい毒、構築される仮想空間。究極的なサディズムと、抗いきれぬマゾヒズム。恋愛小説としても、まったくあたらしい。カラスウリさんの世界を知らないことは、クリエイターにとっての損失である。私もこのかたつむり少女のように、カラスウリさんの世界を啜りとってわがものとしたい。……というようなことを書くと変態そのものだ。カラスウリさんの書く世界そのものが、あまい毒である。私の脳髄もすでに、やられているのかもしれない。
本作に登場する螺は、脆弱な存在として描かれている。自分の世界のなかでは勝気で、傲慢で、捻くれている。しかし、ひとたび心の内を覗いてみれば、そこにいるのは儚く繊細なひとりの乙女だ。(……あれ? この螺、ツンデレじゃね? それともヤンデレ?)とにもかくにも、強烈な個性を発揮している。夏の太陽が照りつける海。その水面を走る汽車のなか。そこで繰り広げられる悲恋。ほどよく説明的で、かつ幻想的なことば選び。キャラ良し、世界観良し、文体良し。傑作だ。
『つぶり』に取り付かれた者は夢を見る。その夢は、静かに浸食してやがて、宿主を食らい尽くす。でも、捕食者であっても『つぶり』は、彼をジロを好きで仕方がないのだ。追う者と追われる者でありながら、自らの淡い恋の形に具現化した『つぶり』に翻弄され続ける主人公、慈浪。何故かその夢という仮想空間においてホオジロ、ジロと呼ばれながら、好きだった相手の姿をとる『つぶり』に彼は翻弄され、甘やかな恋に苦しめられる。行間から滲み出る切なさが、不思議な魅力を放つこの作品。気付けばあなたもさ迷い虜になるやもしれません。