評価:★★★★☆ 4.3
陶芸工房「翡翠堂」には奇妙な者たちが訪れる。
以前の持ち主の幽霊。恋に臆病な河童。寺の跡取り娘で嫉妬深いサンショウウオと、妖小僧たち。
翡翠堂の主、宮地圭介が一目惚れをした華奢でうつくしい女の正体は、桜の樹に宿る蛾の妖であった。「夏の間しか、わたしは貴方の側にいられない。それでも貴方は、わたしを必要としてくれるの? 後悔しないの?」
オオミズアオは宮地へ問いかける。「俺の人生丸ごとお前にくれてやる」
宮地のまっすぐで無骨な愛情が、かたくなだったオオミズアオの心をとかしていく。一生を共に過ごそうと誓いあったふたりの行く末は……
無断転載禁止。無断複製禁止。本作は角川『野性時代フロンティア文学賞』一次通過作を加筆修正したものです。
第六回ネット小説大賞2次通過作。※三部作となっています。
『こいし恋しと夜になく』(光文社/小説宝石新人賞一次通過作)河童の恋物語。
『ひえた毒』(第六回ネット小説大賞一次通過作)宮地の弟弟子であるコーへーくんの歪んだ恋愛物語。
話数:全27話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:あまあま
展開:未登録
注意:全年齢対象
とにかく設定からして飛び抜けている。誰がこんな設定を考えつけるだろうか。そして読みやすい文章についついその世界の中に入って行ってしまって戻ってこられなくなってしまう。不思議な出来事を当たり前だと考えてしまっている自分に気付いた時にはもう作者の術中にハマってしまっているのだ。この主人公の武骨な猛愛。季節を重ねていく暮らし。あなたもこの不思議な世界で愛を見続けてみませんか。じんと胸に来るものがありますよ。
自分の全てを相手に捧げたいという恋をしたことがあるだろうか。相手の全てを奪い尽くしたいと願うような愛を知っているだろうか。身を焦がすような恋愛は、若者だけのものではあるまい。世の厳しさも不条理も知っている大人こそ、もがき苦しみながら愛を求める。ひっそりと輝く線香花火が燃え尽きる直前に火花を散らすように、穏やかな日々の果てにある愛は、きっと驚くほどの熱量を持つに違いないのだ。歳を重ねるということは、いつか来る終焉を見据えるということでもある。愛する人を残して旅立つのか、はたまた見送る立場になるのか。先に逝くというのはとても幸せでずるいことなのかもしれない。愛する人は、自分のためだけに美しい涙を流してくれるのだ。その嘆きも悲しみも深ければ深いほど幸せに感じる業の深さ。愛は惜しみなく全てを与え、そしてまた奪ってゆく。二人の愛はあまりにも一途で、その切なさに息もできない。
このお話は一人の人間と一人の妖の恋と愛を綴った物語である。このお話の世界は人と妖が共存している。しかし、違う種族であるということは、考え方、寿命など、様々な相違があるわけで、恋愛関係を気づくには壁がある。主人公の宮地とヒロインのオオミズアオは恋をして、その壁を越えて結ばれる。ここで物語は終わりかに見えるが、違う。この先も物語は続く。ハッピーエンドのその先へと。出会いがあれば別れがある。それは夫婦も同じで、その日は訪れる。この物語は、愛し愛された男女の出会ってからの人生を描いた、幻想的で生々しくて、だからこそ、儚くて悲しくともハッピーエンドの物語なのだろう。
陶芸家の宮地圭介は、桜の樹に宿る美しき蛾の妖オオミズアオに恋慕する。この二人の恋慕を縦糸に、人と妖の物語は紡がれていく。人として在ること。妖としての在り方。全く違う一生のはずなのに、交差していく気持ちは、結着した綺麗な陶器の様に。ゆったりとした空気の中で、練り上げられた気持ちは、素焼きから徐々に焼き色が入り、強固になっていく。身悶えする程に焦がしに来る恋模様。あなたも、じっと見守っては見ませんか?