評価:★★★☆☆ 3
夜の不帰浜(ふきのはま)漁港で、粂田 俊郎(くめだ としろう)は歓迎会の宴に参加していた。
元やくざの舎弟頭補佐だった粂田は、芝崎組長の女房である千景(ちかげ)に手を出したため破門者となり、逃げるようにこの漁村に落ち延びてきたのだ。不帰浜で暮らす親類、謝花(しゃばな)老人をたより、余生をここで漁師でもやりながらと考えていた。だがこの酒席は、網元につぐ力をもつ岡添(おかぞえ)と、その片腕である梅野(うめの)による、新参者を受け入れるか否かの面接をかねた、不帰浜における暗黙のルールを叩きこむための場でもあったのだ。
はじめは岡添らも粂田の出自について警戒心を抱いていたが、しだいに心を開いていく。
急ピッチで酒を食らっていく四人。話題は漁師のあいだで伝わる風習からはじまり、怪談話へと移り、目まぐるしくかわっていく。粂田は不帰浜の由来を聞き出したことから、泣瀬(なかせ)にあるという卒塔婆島(そとばじま)のタブーへと切りこんでいく。
卒塔婆島――それは、地元漁師が気味悪がって近寄らない島だった。かつて島で一夜を明かした岡添の伯父が、明くる日に迎えに行くと、発狂した過去があったという。謝花老人は卒塔婆島について語るのはよせ、と諫めた。どうやら不帰浜では、島については触れてはならない不文律があるようだ。
粂田はとたんに興味を示し、言うのだった。「どうだ。ひとつ、おれも度胸試しに、そこでひと晩明かしてやろうじゃねえか」
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
われわれの愛する家族や仲間は、死体となったとたんに、禁忌の物体となってしまうのか。 むしろ、死体は福をもたらすと信じる者たちもいた。だれかの不幸はだれかの幸福をよぶと。 伝統的に験をかつぐ漁師。死と隣りあわせのかれらは、刹那的な生き方を好む。 その荒くれものたちさえ恐れて近づかない島に挑む粂田。はたしてかれは、生還できるのか。