評価:★★★★☆ 4.4
「琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~」に少し出てくる治安維持警備隊第二部隊のサイドストーリーです。
コハクたちが無事に高位妖魔を使役することに成功し、二件の妖魔事件は終息を迎えた。
事件の後、カーズたち第二部隊は酒場にて祝杯を上げる。酒場で息巻く若い隊員を見て、昔を思い出すカーズ。乞われて自身の過去を語り始める。商業国ナナガ国の嫌われ部隊、妖魔と妖魔の宿主と戦う第二部隊の実情を第二部隊隊長カーズの過去を語る形で綴っています。数々の辛酸を舐めた第二部隊の辛酸の部分ですので、明るい物語ではありません。
全10話で完結です。
人死にや殉職、暴力シーンあり。野郎ばかりの泥臭く、男臭い物語をお届けします。
続編に「ナナガ国の嫌われ部隊隊長と糞野郎なブン屋の戦い」があります。
話数:全10話
ジャンル:エピック・ファンタジー 異能バトル
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
彼らは颯爽と現れ悲劇のすべてを打ち払い、すべての者を救う。そんな無敵のヒーローではない。これは消耗品と蔑まれ残酷な世界観の中でそれでも生きていこうとする人間の物語だ。ヒーローではない、かといって悪役でもない、これは絶望に抗おうとする人間たちの物語敵は強く自分たちは弱く、それでも倒し切る手段が到着するまで戦い続けるしかない。時には宿主としてミイラ取りがミイラ取りになることもある。それでも彼らはあきらめない。自分たちにかなえたい願いや守りたいもの、おのれの中で譲れない何かを皆それぞれに持っているからだ。だからこそ人間は圧倒的な強者や絶望に抗うことができる。誰しもが大切な何かを持つからこそ、人間は強くなれる。周りから蔑まれようと、仲間を喪い、あるいは鬼籍に入ろうと立ち止まることは許されない。絶望的な状況の中で最善を尽くし戦い抜く。これはそんな熱く雄々しい男たちの物語だと私は思う。
あーん! なんなのこの作品!出て来るキャラが男ばっかりで、かわいいおんなのこのえっちなシーンが無いじゃん!男が酒のんでるシーンからはじまるし、読んでるだけで汗臭いよぉたすけてえ。しかもなんか、めっちゃ、妖魔と戦って仲間を失い己の戦い方に疑問をいだき、身体を失った仲間への懺悔、後悔。組織の体制に苦渋を飲まされ、それでも瞳の光を失わず。泥にまみれ、血で汚れ、誰にも認められずとも。底辺で這いずり、力強く戦い続ける物語……。漢だらけのハードボイルド外伝。
この話は本編とは違うサイドストーリーでしかない。この時点で正に脇役といったところだろうか。どれだけ戦おうと傷つこうと誰も彼らを見ない。彼らにあるのは第二部隊という肩書きだけなのだ。給金も、退役も、後も先もどうしようもない現場で、彼らはそれでも必死に戦っている。脇役、モブ、彼らを物語的に端的に表すとその一言につきるだろう。だが、大きな流れでは目立たぬそれらもまた、それ単体で名を持ち懸命に生きているのだ。
第二部隊は日陰者だ。命を懸けて戦いながら、常に侮蔑の対象である。たとえ、民衆を守ったとしても感謝されることはない。なぜなら彼らは、ただの『消耗品』だからだ。彼らを取り巻く環境はあまりにも過酷で、読んでいて胸をえぐられる。どんなに働いても栄光を与えられることはなく、肉体を欠落させ、ある者は退役し、ある者はあっさりと死んでゆく。そしていつ何時敵である妖魔に身を落とすかもしれないという底知れぬ恐怖と常に隣り合わせなのだ。けれど渦中にいる第二部隊の面々は、決して下を向いて投げやりに生きているわけではない。彼らには彼らなりの信条がある。守るべきものは人それぞれだ。何のために戦うのか、なぜ戦うのか、それは彼ら自身にしかわからない。腹も膨れない、崇高な理念などここでは何の意味ももちはしないのだ。彼らの生き方は、あまりにも熱く泥臭い。けれど必死に這いずり回るその姿は、きっと何よりも美しい。
彼らに栄光はない。手柄は常に他人のもの。もし手柄となる功を立てたとしても、人々は彼らを『消耗品』だと罵倒し、守られても彼らを恨む。彼らに待つのは死か、退役か、戦い続ける修羅の道。その退役も、五体満足ではなく、強大な敵に対峙した事による怪我が圧倒的多数で、死ぬことはさらに可能性が高い。こんな状況で戦い続ける彼らは、しかし己の境遇を悲観しない。共に戦う仲間と共に、自身の目的の為に戦うのだ。人々を守るという、崇高な志なんか欠片もない。そんな最低の寄せ集め達の心を知るこの話は、読了後にあなたの心にこんな感想を残すと思う。―――彼らの生き方は、最高だ、と。