評価:★★★★☆ 4.2
そう遠くない未来の日本。先天性免疫不全症とされる障害を患った人間が、増加していた。彼らは、清浄度の高い環境で生活することを強要され、その実現のために無菌衣と呼ばれる特殊スーツを常時着用しなければならない。
先天性免疫不全症は遺伝性で、片親でもその遺伝子があれば、子供も同じ運命をたどる。
生身で触れ合うことも、子孫を残すことも許されない呪われた存在。それが、僕ら。
これは愛を歌えない僕らの、愛を歌った物語。
話数:全4話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
死と隣り合わせの世界で、音楽で結ばれた二人。先天的な病を宿しながらも、それに抗おうと恋をする。かつてこれほどまでに衝撃的な恋物語があっただろうか?触れ合い、愛し合えることの喜びをこの作品で感じてもらいたい。また、この作品は「歌」というワードが巧みに使われている。作品の中に織り交ぜてある描写は目を見張るものがある。真実の愛とは何なのか?命を賭けて紡がれる「恋」をその目で確かめてほしい
先天性免疫不全症。外部刺激に絶望的に弱い人間を生み出したその障害は、患者を社会から完全に隔離させてしまった。無菌衣を脱いでは生きられない。触れ合って愛を確かめることも、互いの本物の姿を知ることすら叶わない。患者たちは願った。ありのままの姿で世界を生き、愛を謳歌することを……。物語の核となるのは歌。障害を乗り越えた歌手の声が、主人公たちの人生を大きく転がしていきます。悲痛な境涯へ立ち向かう覚悟と心境を歌い上げる様々の歌は、この作品の象徴的な存在でもあります。歌うことでしか叫べない人がいる。聴くことでしか味方を見つけられない人もいる。誰だって自分の胸で息をしたいのです。それが命取りなのだとしても。許されざる愛の果てに待ち受ける、衝撃の結末。卓越した文章力は、読み手に時間を忘れさせるに十分な力を持っています。命を燃やし尽くしてゆく者たちの「歌」を、あなたも聴いてみませんか?
シネマティックで非常にカラフルな質感のハイクオリティな作品。先天的な運命に翻弄され、それに抗うように、海を目指す物語。メロディのような美しい描写、しかしそれはバラードなんかじゃなく、時に激しくスピード感溢れ、時に優しく静かな気持ちにさせ、時に狂おしいほど込み上げ刹那くなる。望むように生き、望むように死を選び、人は初めて自由と呼べる。文学とエンターテイメントが共存するハイブリッド作品で大変おすすめです。
音楽を感じさせてくれる小説は数多あるが、これ程うまく軽快に文学と融合しているものはなかなかお目にかかれない。感じるのは青い煌めき。四部ある内始めの一部は、漫画とラノベどっぷりの方には難しいかもしれない。ちなみに文章は本屋に並んでいても不思議ではないレベル。だが、それ以降は誰もが良い意味でクラクラできる程の凄い加速度で物語は盛り上がりを見せる。さて、物語の話も。先天性免疫不全症の二人は汚れの知らない白い檻に閉じ込められていて、社会から隔絶されている。二人が発する魂の叫びは音楽なんて枠を超えた純粋さで、憧れの海へと疾走する。それは文字通り自殺行為であり、同時に『真っ当な生』への渇望と自らの尊厳を忠実に守るための儀式でもある。純粋すぎて生きづらい人にも、少し疲れてしまって全てを投げ出したいができない人にも是非読んでもらいたい。二人と共に海まで走ろう。BGMがあるから、僕たちの足は止まれない。
死を厭う世界で死をも厭わない、相手とともに生に殉じる愛。むしろ、これほど生命力に溢れるラブストーリーもないのではないかと思いました。一緒に死ぬことを決めた二人の、最後のロードムービー、と言う側面もあり、「絵になる」風景描写とテンポのいい台詞のやりとりが作品に瑞々しいスピード感と新しさを付加していると思いました。ジャック・ダニエルのウイスキー、本当の牛乳、ピアニッシモと言ったわたしたちに身近な小道具も見事に、違う世界に生きるわたしたちに「これからあり得るかも知れない世界」を、実感させるのに外せない見事な助演になっています。愛している人に、触れたら死ぬ。そんな世界になったら?…わたしは、クリスチャンディオールのCMに出てきたあの台詞を思い出しました。「あなたは愛のために何をする?」