評価:★★★★★ 4.5
戦乱の葦原中国のなかで、山に囲まれたオオヤマツミは唯一、平穏な場所だった。
心清い人々が栄えるオオヤマツミに、二人の姫が誕生する。一人はこの世のあらゆる愛を独占する、美しいサクヤ。
もう一人は惨めなイワナガだった。イワナガは穢れた子、姫でありながら疎まれていた。高天原から、葦原中国を統べるため、降臨した天孫、ニニギ。
サクヤを娶る婚礼の晩に、イワナガは罠にかかり禁断の剣を手に取った。
手から離れなくなり、暴走を始める神器、クサナギ。「わたしを誰か殺して」
イワナガの叫びに応えるのはだれか。古事記ファンタジー、開幕。
※「エブリスタ」様でも公開
話数:全51話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
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職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
愛薫る中に咲き誇る美しき姫神サクヤ。無下に背かれ孤独に繋がれた姫神イワナガ。表裏の存在、しかし、その在り方は器にそぐわぬ願いの業であった。何故疎まれる、何故蔑まれる、何故誰も愛してはくれないのか。たぎる激情が剣を得たとき、檻はひび割れイワナガの慟哭が響く。信じていた者の裏切り、存在の意義、たがえることの出来ぬ理。孤独にあえぎ、知を得る苦痛にもがくイワナガが辿り着く先とは。蠢きに叫ぶイワナガの声に、心がえぐられ疼きを覚える。その痛みさえ引手とする独特の世界観と構成が、読み手の視線を文章から捉えて放さない。孤独を孤高へと昇華したイワナガヒメと共に、自らの心の内をも問われる作品。
主人公イワナガを取り巻く環境は、過酷で残酷だ。ただ平凡な幸せを望むことすら許されない。孤独に苛まれ、周囲の無理解に涙し、謂れのない中傷を受けてもじっと耐え忍ぶイワナガ。それは、現代社会で声をあげて助けを求めることもままならない私たちの姿そのものだ。この世界に安易な救いはない。耳に心地よい慰めも、妬み嫉みを取り除くすべもない。何を受け入れ、どう行動するのか。迷い傷つきながらも進み続けるイワナガから、きっと目が離せないだろう。見せかけの価値観では計り知れない大切なことは、苦しんだ先でしか手に入らない。読み進めるごとに、涙が溢れるだろう。人生の辛酸を舐めてきた読者ならば、歯噛みしながらページをめくることになるだろう。けれど結末まで読み終えたその時、あなたの胸には、はっとするほど清らかな、ある種の赦しと達観が訪れるはずだ。苦しみ、もがいた日々は無駄ではないのだと私たちはすでに知っている。
美しく咲き誇る花がある。その花の美しさは、見る者すべてを魅了して幸福を与える。しかし、人々は花の美しさばかりに目を奪われて、それ以外のことには関心がなかった。美しい花を咲かせるためには、力強い陽を浴び、大地に根を張り命を吸い上げなければならない。何を犠牲にして花は美しく咲き続けるのか。その輝きの裏側に隠されているものを人々は顧みない。それは、自身に流れる命に対しても同義だ。生きる上で幸福を求めることに罪はない。ただ、何の上にそれを成り立たせるのかを認識しなければ、その形は歪になる。本作の舞台となる国が、まさにそう。美しさを約束された『表』のサクヤ姫と、あらゆる穢れを背負わされた『裏』のイワナガ姫。当たり前のように振りまかれる幸福を支えながらも、その一粒をも与えられないイワナガの定めは不条理に満ちていた。彼女の中に流れるマグマのような激情と行き着く先。生きる形とは。
父親の度を越した、無謀なる願いの人身御供となり、この世の穢の一切の責を、業病のように内包して生きる事を定められたた少女・イワナガ生命の穢を知らず、魂の輝きで人々を魅了し続ける妹のサクヤへの嫉妬にのたうち回りながら、ただ『普通に生きたい』と切々と願うイワナガを嘲るように、運命は過酷なまでの宿命をさらに彼女に背負わせる逃れられない運命は、だが生命の強かさの具現でもあった恨み辛みも忌みも穢れも、光の陰に隠れるものこそが、生命の支えである事実に気がついた時、イワナガは何を見つめ、何を受け入れたのか全ての魂へ、科するように引業と許しを与えるまでに至るまで、長く長く一生をかけて、生命の在処と成否を問い続けた少女・イワナガ彼女の旅路の果ては、どんな世界であったのか答えは、どうぞ皆さんの、その目で確かめてみてください