二十一世紀も四半世紀を過ぎたある日、突如として人類は存亡の危機に立たされる。
植物という植物が枯死、あっという間に地上から緑が消失したのだ。当然のこと、食料の熾烈な争奪戦が始まり、至るところで生き残りをかけた地獄絵が展開する。その阿鼻叫喚の渦を更なる危機が襲う。小惑星の襲来である。地形が変わるほどの擾乱が大地をなめる。この驚天動地の災厄を潜り抜けて生き延びた人類は、数万人規模であったという。しかし試練は終わらない。息も絶え絶えの人類が次に直面したのは、寒冷化。ほんの数年で、赤道直下でさえもがツンドラの地と化した。
凍てつく大地で、人々は飢えと寒さと病で次々に倒れていく。
それでも人類は生き延びる。疑似植物といえる火炎樹の開発に成功したのだ。土壌を直接食料や燃料に転換することのできる巨大な微生物の集合体。緑なき大地で人類は、この火炎樹を栽培することによって、新しい世紀を切り拓いていく。
人が集いて国家をなし、凍土の大地に栄華盛衰の歴史を刻む。
そして二千年。
有限たる資源、土壌は食いつぶされ、世界は雪と氷と砂漠に埋もれつつある。
緩慢な死の気配が人類に忍び寄ろうとしていた。
物語は、少年ウィルタが氷河の中で冷凍睡眠の棺を見つけたところから始まる。主人公は棺から蘇生した前世紀の娘、春香。二人は追われるようにして旅に出る。そして旅を続ける中で、自身が負わされた運命に気づく。それは取りも直さず、二千年前に人類を襲った災厄の真相を解き明かすことであり、冬の時代を過ごす人類の再生への道どりを探ることであった。
旅の果てに二人が見たものとは。ジャンル分けをすれば、サイエンス色のあるハイファンタジーとなりますが、資源エネルギー問題をテーマに据えたロードムービーのようなお話です。日掲で年内に完結の予定。娯楽性の少ない地味で暗くて長~いお話ですが、忍耐力に溢れ、かつ暇を持て余している方、よろしければお付き合いください。
なお、長~い話はかったるい、あかんねんという方は、短編の連作「旋灯奇談」をクリックしてみて下さい。肩の凝らない話で、十本ほど載せてあります。
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本作の特筆すべき点は非常に多い。 まず目につくのは圧倒的な文章量だ。 しかもこれはきちんと構成された上での量なので、内容も充実している。 特に物語の展開は非常に劇的で、困難を極める旅を臨場感をもって味わうことになる。 設定も非常に緻密で、しかも過不足なく描写されているので理解しやすい。 登場人物も欠点や感情を含めてきちんと描写されており、個性を持ち活き活きとしている。 特に主人公二人は、欠点もあるが好感が持てる人柄であり、理想的な描写である。 誤字等は少数存在する。 本作の文章量は、読書家以外に手が出ない巨編に見える。 しかし、実際に読み始めてみると、丁寧で優しい文章と躍動感あふれる物語が共存する読みやすい長編であることが分かる。 じっくり味わいたい作品をお探しなら、是非読んでいただきたい逸品である。