もののふの星

　時代は２３世紀初頭の近未来。２１世紀の終盤から火星への移住を本格的に開始した人類だったが、自らの過ちにより火星の地上には致死性の高いウィルスが蔓延り、その結果、多くの移住者が犠牲となってしまった。
　火星全土からの全面的撤退を余儀なくされ、地球への帰還も許可されない人々が窮余の策として、作り上げたのが小惑星改造型人工宇宙都市。人々は自らが作り上げた新天地を親愛を込めてオービット・フォートレス『軌道要塞』と呼んだ。この時代の火星空域には大きく五つの連合国家が誕生しており離合集散を繰り返していた。
　その連邦国家の一つ、神聖ローマ連盟の自由フランス共和国海軍に所属する、女性士官、ルナン・クレール中尉は作戦行動中に、艦隊を組んでいる僚艦が謎の敵によって次々と撃破される事態に遭遇する。その最中に艦長が戦死してしまう。艦隊規約を司る業務保全AIによって彼女はフリゲート艦『ルカン』の代理艦長として指揮を執ることになってしまった。
　新任の若き女性艦長に対して部下の間にも不穏な空気が立ち込める。更には指揮権引継ぎ時に今作戦における秘匿情報の扱いに関する難題も持ち上がってしまう。ルナンはこの難局を乗りきって生還を果たせるのか？
　人類の新天地火星を舞台に、後の時代に『火星のジャンヌ・ダルク』と呼ばれ、入植者の尊敬と敬愛を一身に集めた、一世の女傑ルナン・クレールが火星の興亡史に名を連ねる最初のエピソードとなる物語である。