柊(ひいらぎ)学園音楽大学に通う牧野美風(まきのみふう)は、夏休みのアルバイトに海辺のホテルで開かれるピアノ演奏会での譜めくりの仕事を選ぶ。本格的なアルバイトは初めてで、しかも譜めくりも初めてだった美風。譜めくりをするピアニストも誰だかわからない状況に不安ばかりが募る。天才ピアニストとして幼い頃より注目されていた美風だったが、ここ最近はあれほど優勝するのが当たり前だったコンクールでずっと第二位に甘んじていた。すっかりピアノに対する自信も情熱も失いかけていた美風は、いったんピアノから離れて自分を見つめ直す時間や状況が必要だと考えたゆえの譜めくりのアルバイトだった。それに譜めくりというものが、自分にとってどこか絶妙な距離感にも思える美風だった。
白亜の美しいホテルに着くと、支配人が出迎えてくれた。そのホテルのラウンジに流れているジャズを聴いて、美風は弾いているのが人気ピアニストの野崎京介だとわかる。支配人にそのことを尋ねると、確かに弾いているのは野崎京介で、このホテルをよく利用している会員だということだった。野崎京介が弾いているとわかったのは、美風で二人目だと支配人は言う。美風の驚くべき感性に感心する支配人。支配人は美風に一枚の演奏会のパンフレット用の写真を見せる。そこに写っていたのは、まぎれもない野崎京介本人だった。まさかと思った美風だったが、支配人はそこで初めて譜めくりの相手が彼であることを明かすのだった。野崎京介はこの三年間、表舞台から姿を消していた。その前の三年間で出したアルバムはインストゥルメンタルとしては記録的な売り上げとなり、その楽曲はさまざまな媒体に使用され、本人もCMなどに出演していた。その容姿から彼には熱狂的な女性ファンがいた。美風ももちろん彼のことは知っていたし、アルバムも何枚か持っていた。譜めくりの相手が野崎京介だとわかって、仕事に対する不安はどこかに吹き飛び、喜びにはしゃぐ美風だった……
譜めくりの恋
完結日:2018年1月30日
作者:ゆぶ
評価:★★★★☆ 4.4
話数:全95話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
タイトルが「譜めくりの恋」とあることから分かると思いますが、恋愛ものであると同時に、譜めくりや、ピアノに励む女の子の青春ストーリーでもあります。譜めくりは、「演奏者の楽譜をめくる」だけなのですが、これが奥深くて、見事に描かれています。ピアノに興味がない方にも分かりやすく、ストーリーに織り込まれるように書かれていて、音楽についてさっぱりでも、こんな世界があるのか……凄いなぁーと逆に知らない世界を楽しめます!楽しんでいるうちに、徐々に明らかになっていく、登場人物の関係。演奏や曲に秘められた思い。そこから描かれるドラマ。深く、美しく、非常にレベルが高いです。なろうでは、熱々な恋愛模様が好まれる中こういう、内面から深く書かれる作品を探すのは難しいと思います。じんわりと描かれる恋愛模様と、熱い友情、作品から伝わる溢れんばかりの思いを、お楽しみください!