新国王エドワード2世の戴冠式を前にした一九〇二年の七月末、ホームズとワトソンはホームズの兄マイクロフトの仲介で外務省に呼ばれ、ランズダウン外相と林董(ただす)日本公使から直々の依頼を受ける。依頼の案件は紛失した英国と日本との極秘の軍事協約書の捜索だった。日英同盟を結んだ日英は、条約公文とは別に秘密軍事協約を締結し、協約書には日露開戦時の英軍の満州派遣と日英の協同作戦計画が記されていた。もしこれが明るみになると日露のみならず、英仏をも巻き込んだ国際問題となるおそれがあった。
協約書はホテルの日本陸軍代表、福島少将の部屋にあったが、無人の密室となった部屋で、施錠した書類鞄の中から陸軍の協約書だけが姿を消してしまうという謎に満ちた事件だった。捜査の過程で、ホームズたちはドイツスパイの尾行を受けたり、ワトソンの医院にロシア工作員が侵入して銃撃戦となったりするが、ドイツとロシアが協約書紛失に関与したかは不明だった。
ホームズは、密室への侵入が事件当時フランス出張中の隣の柴中佐の部屋から行われたことに気づき、内部犯行の疑いを抱く。ホームズとワトソンは、ロンドンに戻った柴中佐と会い、彼が2年前の義和団事件で世界的に有名な人物であり、謙虚で誠実な人柄であることに好感を持つ。
同じ頃、ホームズは日本海軍関係者が軍艦建造で巨額のコミッションを取っている噂を聞き、その窓口が海軍駐在武官玉井大佐であることを知る。さらに、協約書は鞄自体がすり替えられて盗まれ、これが玉井大佐によって仕組まれたことを突き止める。また、英国の諜報員シドニー・ライリーからパリの日本公使館の陸軍駐在武官明石中佐という人物がこの事件に関わっていることを聞く。
明石は、二枚舌の英国が始めから軍事協約を履行する気などなく、日本敗北を予期してフランスと密約を交わしていることを知り、汚職軍人の玉井を強迫して協約書を盗ませ、日英軍事協約を阻止しようとしたのである。
しかし、玉井は鞄を用意しただけで、事件当時はアリバイがあった。鞄をすり替えた実行犯は誰か? やがて、それが全く意外な人物だったことを知ったホームズとワトソンは、ドーバーに急行して海峡渡船で大陸に渡ろうとするその人物と協約書を追う。
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