評価:★★★★☆ 4.3
推定樹齢、およそ六百年。
町のシンボル、拝島松原の『春待桜』は、六百年間の間でたったの一度しか花を開かなかった。
なぜ咲かないのか、なぜ咲いたのか、その真相は誰も知らない──。中学二年生の少女、中神柚は喘息の持病を抱え、空気のきれいな街を求めて東京・拝島へと転校してきた。
新たな友達もでき、新たな生活環境にも慣れ、それなりに平穏な日常を築き始めていた少女は、ある日の深夜、発作とともに幻覚に襲われる。
幻覚に現れたのは、正体不明の武者の影。彼は言った。
──「ようやく時は来たり」と。
それが、およそ数百年に及ぶ、春待桜にまとわる歴史の謎を紐解く長い戦いの始まりであったことを、少女は知る由もなかった。桜と、その樹の下を拠り所にした少年少女たちをなすすべもなく飲み込んだ、二つの戦争の記憶。
数百年を生きる桜にかけられた、強い呪いの正体。
隠されたままになっていた、途絶えたはずの血の真実。
すべてが明らかになった時、少女を、そして街を巻き込む、巨大な奇跡が動き出す──。■2018年4月、完結しました! 応援してくださった皆様、作品制作に協力してくださった皆様、本当にありがとうございました。
話数:全69話
ジャンル:
時代:室町時代
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:残酷な描写あり
中世、昭和戦中、そして現代へと。のべ五百年以上の時代を経て、届かぬ人の想いを伝えてきた春待桜の壮大なお話です。作者の強みである綿密な取材と物語構成に基づき、奥行きの深いストーリー作りが、物語に美しい陰影を与えています。 主人公は、閑静な都下で思春期を過ごす少し内気な女の子と想いに不器用な男の子。素直に心を開けない劣等感を抱えた二人が、歩み寄ってはぶつかって、歴史の闇に消えた幻の桜の伝説を追い求めていく。物語のそこかしこに散りばめられた伏線が終盤、咲かないはずだった桜の満開とともに堰を切ったように収束へ向かう展開はまさに、『長編小説を読む』醍醐味そのもの。 花は散っても、春が記憶に残るように、読後、単純な言葉で言い表せない、大きなカタルシスを味わえる作品です。腰を据えてじっくりと、物語に浸りたい、『入り込める』長編小説を読みたい、そんな方にぜひお勧めしたいです。