評価:★★★★☆ 4.1
異世界への転移・転生が「次元渡航技術」として確立された近未来の日本。主人公は異世界保険会社と契約を結び、転移・転生希望者を「次元跳躍車両」で轢いて異世界へ送る事で、金銭を稼ぐ仕事に就いている。
殺人の真似事をする職業ゆえに、差別的な扱いを受けることも多い主人公。自分はどこかで人生の選択を誤ったのではないか? そんな自問自答を繰り返す毎日を送っている。
そんなある日、主人公が帰宅すると、知らない男がリビングにいて……※異世界転生や異世界転移をSF的に解釈しつつ、家族の縁や絆をテーマにした連載短編小説です。ヒューマンドラマ的傾向が強いですが、お楽しみいただければ幸いです。
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
異世界転生・異世界転移という、小説家になろうで有名かつ人気な小説のジャンルがある。この物語は、その「転生・転移」が特殊な科学技術によって実現した社会。しかしそれは……甘い世界ではなかった。エゴは人間の種としての判断を鈍らせてしまい、世界の人口は、瞬く間に減少、治安は悪化する。――そして、トラックで対象者を「轢き」、転移や転生を行う稼業の者は「疑似的な殺人」を犯した者して差別され続ける。こんな世界に絶望し、異世界へと活路を求める人類たち、そして主人公の壊れた家庭。主人公は、最後にどんな決断を下すのか、考えさせられるSFです。
現実は苦しい。頭ではNOと思ったことに対しても、折り合いをつけて生きていくしかないのだ。それら全てを置き去りにして希望通りの異世界へぶっ飛ぶことが出来るのなら、もし現実に夢も希望もないのなら、誰だってその選択をすることでしょう。主人公である彼は、それを許容する社会や、それを生業としている自身の状況にすら憤りを抱いてはいるものの、はっきりとした答えは見出せず、ある意味現実と異世界の間で葛藤をし続けている。そういった人間の葛藤が好きなので、主人公がたいへん好みでありました。(暗澹とした気分にさせられる情景描写も見事)そんな彼の身に訪れる転機とは。そして、最後に導き出した答えとは。そこに何らかの希望があることを信じて。《ディメンション・ドライブシステム、オール・グリーン》あまりハードじゃなく病気になったり卵も植えつけられない逆レが横行する世界ってありますか――――!
この物語、SFなのですが、SFを通じて現実との向き合い方を浮き彫りにしています。客観的に見ても、不幸と不運だらけの主人公の家庭。母は精神を病み、父は逃亡、弟は引きこもる。主人公はそんな家庭を支えるために、特殊な車(次跳車)で人を轢いて異世界に飛ばすという世間で忌み嫌われている仕事をこなす。何だかんだ、この物語の登場人物たちはみんな、現実から目を逸らします。ただ、一人だけ、最後に現実に立ち向かおうとする(もしくは、ずっと抗おうとしていたのかもしれない)人が出てきます。根本的な解決にはならないのですが、それでも、その人の決断は決して「逃げ」ではないと思います。「異世界に旅立ちたい」と思っている方が、もし、いらっしゃるなら、ぜひ、この物語を読んでみてください。何か足りないものがあると思い直せると思いますよ。
いいえ。白黒はっきりさせるSF系にそのような仮定系は不要かもしれない。大雑把に言うなら、現代世界を漂わせる場所で描かれる儚い人生。この文体がそう感じさせているのかもしれない。当然の如く、なろうテンプレから外れた理屈ありきの転生理論。そして人間身のあるドラマ。選択した生き方。最後はどうなるのか。読者側は静かに見守るしかできない……。いや、皆で見守ろうではないか。
注意です。この作品はファンタジーではありません。科学的な理論や理屈の整合性と夢と希望が作り出した諸々によって発明された次跳車【ハイエース】に乗る転生稼業の主人公が人を轢いて、その先で人がどうやって【生き直す】のかを見届けるお話です。では、この作品の特徴である異世界に送る方法の理屈なんですが、次跳車が転生対象者と衝突するときの物理エネルギーが、搭載されているリンカーネーション・バンパーに充填された未知の粒子【ヘカトス粒子】と衝突することによって、対象者を異世界へぶっ飛ばすのです!やばくないですか?異世界へぶっ飛ばされる理屈を説明した作品なんてないです。たぶん……これから異世界転生物語を読む前にこの作品を読んでその辺りの理屈も学ぶと面白いかもしれません。いつかこの設定がテンプレになる日を願って