評価:★★★★☆ 4.1
月の輝く夜、とある施設の解剖台が並ぶ霊安室のような部屋で、記憶喪失の赤毛の全裸の少女は、全裸の金髪の美少女(但し内臓がお腹から覗いている)に目覚めさせられる。金髪美少女によると、彼女たちは人工的に造られた研究用の生物的な「ムラージュ」と呼ばれる存在らしい。二人は友達となってそれぞれケイとディーと名乗り、解剖され続けながらも、施設からの脱出を図る。
また、日本海側のX県にある無許可のグループホーム「楓荘」に、無免許医かつ所長の楓、17歳の介護士兼看護師の少女・根津美子、そして長さ1メートル、周囲80センチもある知性あるソーセージが暮らしていた。ソーセージは以前楓に拾われた後楓荘に住込み、介護ロボットというふれこみで入所者の話し相手をしているが、それ以前の記憶がない。だが何故か豊富な医学知識を持ち、様々な医療場面で役立っていた。
交差する二つのストーリーの果てに待つものは……。
第21回日本ホラー小説大賞最終選考候補落選作。
第22回電撃小説大賞二次選考落選作。
第1回WEBアマチュア小説大賞特別賞受賞。
話数:全65話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
本作は冒頭から異常な光景が繰り広げられる。繊細ともいえる描写によってスプラッタ系の凄惨さ、生々しさが際立ち、胸焼けすら覚えた。これだけで一見の価値があるのではないだろうか。 何もそのようなテイストのみに偏った作品ということでもなく、コミカルな別視点は、実に現実的な世界観を描いている。そこには巨大なソーセージがいるので現実的かと問われるとアレだけれど。 真面目一辺倒なスプラッタホラーではないのだ。本作は。 話を重ねる毎にコミカルにもシリアスにも転換を繰り返す。悪夢のような世界は夢から覚めるように箱庭から飛び出し、片や、どこまでも地に足ついたグループホームは悪夢のような箱庭の背景を見せ始める。 冗長的と思えた場面でさえ不要なエピソードではないのだと二周目で理解できた。 完結作であるからこその楽しみ方ができる。この点も、本作を一小説としてお薦めしたいポイントだ。
本作は、タイトルからして非常に吸引力のある衝撃的な小説だ。全裸の主人公がはらわたのはみ出た少女に声を掛けられるところから、この奇妙な物語は始まる。その世界観はとてもミステリアスで、グロテスクでありながらエロスや笑いも取り入れられ、一見悍ましい要素を詰め込んだホラー小説のようでありながら、作者の書き方ひとつで読みやすい冒険譚を作り上げている。途中様々な矛盾点を抱えながらも、豊富な医学と薬学の知識がちりばめられ、医療ミステリーを彷彿とさせる展開で物語が進み、最後のどんでん返しで深々と息を吐きたくなる。暗喩や伏線一つとっても、作者の仕掛けの巧妙さに舌を巻くだろう。悍ましくも美しい幻想絵画を見せられているかのような物語。是非、ご一読を。