エース・イン・ザ・シスター

　今から半世紀ほど前、とある女子プロ野球選手が放った特大のホームランは場外へと消え、それは全国の少女に鮮烈な夢を見せた。
　たかが一本の本塁打、されど白球により描かれた放物線は未来への懸け橋が如く―――硬式野球という競技は女性を魅了し、野球界は鳴動する事となる。

　世界的なニュースにもなったこの本塁打を皮切りに、女子プロ野球界は熱狂的な盛り上がりを見せ、数々のスポンサーが名乗りを上げた事により、その規模は大幅に拡大―――野球は男性だけのプロスポーツではないという考えが世間に強く浸透していった。

　女子プロ野球界の発展と共に、アマチュアの活動も盛んになり、競技人口は爆発的に増加―――結果、当時は十分な競技環境を整えられなかった全国高等学校女子硬式野球連盟に最大級の転機が訪れる。

　全国の高校で女子硬式野球部が次々に創部され始めて以来、様々な方面から意見が飛び交い、幾度となく協議が重ねられ―――ついに全国高等学校女子野球選手権大会・紅子園と呼ばれる高校生女子の硬式野球大会が発足したのである。

　夏を巡る毎に野球少女の物語は紡がれる。

　節目となる夏の紅子園・第３０回記念大会が終わった翌日。一之瀬育子の物語は終わり、そして新たに一之瀬明音の物語が始まる。