優しき巫女は春雷を乞う

　豊かな森と美しき山々に抱かれた、人と神とがともに住まう地――磨見ノ国。口減らしに捨てられた過去を持つ１６歳の少女・真幌（まほろ）は、辺境の山に建つ小さな神社の巫女として、慎ましくも穏やかな日々を過ごしていた。しかし巫女としての務めを果たすため、磨見ノ国の都へと赴いた日を機に、１０年前に端を発する真幌の運命は、再び大きく動き始める。
　邪霊の影の忍び寄る都。真幌は千景（ちかげ）という名の孤高の術師に出会う。真っ白な衣。霞色の髪。夕空を宿したような青紫色の瞳――雷を自在に操り、あらゆる邪気を祓う彼は、都の誰からも忌避されていた。優しすぎる巫女と、世界の滅びを願う術師。互いの孤独に呼応するように出会った２人を待ち受けるのは――。
「私……あなたが生きていてくれればそれでいいって、そう思っていたんです。私の一番の望みだから、それが叶えば後はもう、どうなってもいいって――」
　これは、優しき巫女が本当の望みを叶える物語。