評価:★★★★☆ 4.3
あの寺に奉納されていた虫の彫像は、ひどく奇怪で恐ろしく見えて、それでも、なんとも言えぬ悲哀の念が込められておるのを、感じたのでございますよ――
雨の降りしきる真夜中の頃、N県八日町の駐在所に、一人のスウェット姿の男が、ずぶ濡れになって駆け込んできた。駐在所の番をしていた巡査長の大原は、男を招き入れると、何用でこんな真夜中に駐在所を訪ねてきたのかと問い質す。すると男は、隣町の無碍野町(むげのちょう)で十年前に発生した、女子高生失踪事件の真実を話すためにやってきたのだと言うではないか。どこか陰を孕んだ男の気に当てられて、大原は男に話をするように促した。
謎めいた男が語る女子高生失踪事件の真実。それは、無碍野町に伝わる「でんぐり様」と呼ばれる民間伝承にまつわる、世にも恐ろしい「人の悪意」についての話であった。
話数:全10話
ジャンル:
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:山奥の寺が舞台
雰囲気:未登録
展開:未登録
久しぶりに超良質なホラーを読ませて頂きました。これはお金を払わせてくれと言いたい作品です。田舎の男性警官が体験した、とある男ーー小説家の独白。失踪した女子高生に関わる、山奥の寺社に伝わる「でんぐり様」と一夜に起こるおじましき儀式。古典的ながらも全く飽きさせず、それでいて小説家の独白がとてもリアルで奈落の穴から背筋をなぞられるような恐怖が伝わってきて素晴らしい。最後の小説家の憤怒がダイレクトに体験したような感覚に陥る程でした。強いて言えば導入が少し掴みが弱いかな?……と思いきやいきなりどっぷり世界観に包まれるのももしかしたら計算のうちかも、と思えるほどでした。とても良い奇妙な体験でした。ご馳走様です!
ホラーの定石、体験談調で語られるのは、田舎で起きた失踪事件の真相。淡々とした語り口からは、深夜に百物語を行っているような不穏な気配が溢れています。田舎の夜の不気味な空気感、山奥の寺社の異界じみた様子が目に浮かぶようです。怪奇現象の描写ももまた恐ろしくはありますが、何より、現実で起こり得ないとは断じることのできない、人の心の闇が迫力を持って描かれています。語りかけるような文体とも相まって、登場人物の狂気が感染先を求めて迫って来るかのよう。夏の涼を求めるかたにはぴったりです。鳥肌がたちますよ。
∀・)こんばんわ。イデッチです。夏休みに山を散策していると、廃墟と化した寺とでくわすことがあるかもしれません。その鳥居をくぐると何かの呪いがかけられる、そんな迷信を聞くことがあるかもしれません。この作品でとりあげられている恐怖はまさにそんな民族伝承を基にした話から。∀・)でも、その民族伝承で語られていることが事実だとして、人に災いをもたらすものが確かに存在しているのならば、それはとんでもない恐怖ですよね。∀・)「八幡の藪知らず」ってご存知ですか?神隠しが起きた場所として有名なスポットなんですが、知れば知るほど不気味で探求心をそそられます。そんな感覚をお持ちのあなたなら、この作品の底までのぞきたくなるのかもしれません。この作品を読み終えた時に「あなたが大原さんだったらどうするのか?」その答えを感想にて答えてみるのも一興でしょう。まずは最後まで一読を。逃げちゃいけませんよ……
文化的な【死】に直面する町。八日町に勤務する男性警察官のもとをひとつの小説家が訪れる。雨に降られて。息も絶え絶えに。彼は数年前の失踪事件について語り出す。それは古来より、無碍野町に伝わる恐ろしい伝説【でんぐり様】に関するものだった。◇◇◇『身の毛もよだつ』とは、まさにこのこと。この物語は『四谷怪談』や『日本霊異記』をも彷彿とさせる正統派の文学作品・ホラー小説だ。第一話を除き、全てが「自称:小説家」の語りという形式が採用されており、読者に語りかけているかのような錯覚に陥るだろう。尋常ではない雰囲気が漂う。丁寧な地の文であるため、不要な違和感を抱くことがなく、【でんぐり様】とは何かを追い求めることができる。ありそうで、なさそうなリアルさを帯びた作品。この夏に拝読したホラー小説では、個人的に【最も不気味な小説】である。あと、怖い。