<黒>
今村玄穂は、城山観光ホテルの床を見つめていた。焼酎鑑評会で入賞を果たせなかった。それに虎珀の焼酎は見事だった。入賞した蔵元の代表として、虎白は表彰状を受け取っている。たまらなく玄穂は悔しかった。父が倒れて病の床についてから、玄穂が今村商店を切り盛りしてきたが、正直、今の玄穂では父のような焼酎は造れない。長年、父と一緒に焼酎を造ってくれていた蔵人たちとの軋轢も玄穂は感じていた。また、虎白も、今村商店としてのブランド銘柄を捨て、池田酒造と合流して、同じ焼酎を造ると提案してくる。<白>
池田虎白は、焼酎鑑評会で入賞できて安堵していた。池田酒造は、伊佐市の蔵本がいくつか合併してできた酒造だ。虎白は若くしてその酒造の杜氏を務めていた。他の酒造で長年杜氏をしていた人もいるし、頑固気質の人も多いし実力がものを言う世界だ。その実力を今回、入賞という形で表せて安堵したのだ。今回は入賞できたが、今後は分からない。酒造の合併を契機として、生き残りをかけて池田酒造は大量生産に踏み切ることになった。杜氏としての仕事、池田酒造の経営の仕事など多忙を極めていた。隣で支えてくれる人を見つけろとお見合いを進められるが、今は大事な時期だからとお見合いにどうも虎白は乗り気になれない。もし結婚をするのなら、幼なじみで、ずっと好きだった玄穂とだろうと思うのだが。<主要参考文献>
『新しい焼酎の時代―新しい焼酎の時代―』日本政策投資銀行(2017)
『ストレスを受けた焼酎原料サツマイモのモノテルペンアルコール含量と芋焼酎の香気特性』神渡 巧, 瀬戸口 眞治, 高峯 和則, 緒方 新一郎(2005)
『夏子の酒』尾瀬あきら(講談社漫画文庫)
『芋焼酎の香りに及ぼすサツマイモ品種の影響』神渡 巧・瀬戸口智子(2011)
『サツマイモの作り方』坂井健吉編著、農山漁村文化協会(1975)
『さつまいも(ものと人間の文化史 90)』坂井健吉、法政大学出版局(2001)*「まちぶん 鹿児島県伊佐市」落選作品。供養のためになろう様でも公開。
- 未登録
- 未登録