死んだ街と霧の塔 完結日:2019年4月27日 作者:小岩井豊 評価:★★★★☆ 3.7「この街は、やはり死んでいます」 それは命に価値がない時代。 行商人の少女・ケムリは旅の途中、遠くに見える霧の塔に強く惹かれ、荒廃した街へと足を踏み入れる。 十五年前の大聖戦、謎多き塔の呪術師、そして街が死んでしまった理由とは。 話数:全14話 ジャンル: 登場人物 主人公属性 女主人公 職業・種族 未登録 時代:未登録 舞台:未登録 雰囲気:未登録 展開:未登録 その他要素 伝奇 呪術 地動説 天動説 宗教 戦争 魔法 注意:残酷な描写あり なろうで小説を読む
これはある旅の少女が、死んだ街の現状に触れながら世界の謎に立ち向かう物語である。物語は一貫して仄暗く、まるで救いようのないダークな幻想感を突き付けられてるようだが、実は実際の中世ヨーロッパもこの作品の世界観に劣らず暗い時代であったと聞く。つまり、作中の「命の価値が薄い」というのもまるっきり出鱈目ではなかったということだ。話の節々に折り込まれた命の軽さを表現するエピソードには当時の肉薄したリアリティーが現されている。そういった意味でこの作品は、当時の世相をファンタジー風に表現しながら社会派的に書き出した文学作品とも言える。この主人公ケムリの正体とその特性には興味深いものがある。ケムリという存在そのものがこの衰退していく世界に対して運命的で、ある意味皮肉でもある。ラストで抱いた使命感がいかなるものであろうと、私は少女が迎えるであろう苦難に満ちた行く末をこの目で見守って行きたい。