評価:★★★★☆ 4.2
「大人になると、片思いってしないんだってさ」
誰も悪くないのにこんなにも切ない、片思いだらけの六角関係ーー東京から少し離れたところにある町、一夏町。
大人になれない少年、
大人になりたい少女、
大人になりたくない少女、
大人になってしまった青年……。高校生を中心とした6人のひと夏の思いの一方通行 / 交差を、6人それぞれの視点から描きます。
毎日23時更新です!
話数:全19話
ジャンル:ラブコメ
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
6人の男女の片思い(一部微妙な視点あり)が、交錯する物語。恋愛小説で、1番面白くて共感できて感動するのは「イチャイチャ」ではない。各個々の思いの深さがたくさん著されるところだ。このお話は、あらすじ通り「せつない」と思う。それと同時に、6つの思いを濃縮させて読むことができる。その「思い」を引き出させるための伏線や各キャラクタの動かし方が秀逸。1話目からじっくりと読まれることをおすすめする作品。
“高校生4人、成人女性と男性の2人。この6人の””様々な形の””片思いが錯綜し、それぞれの思惑、考え方、姿勢、悩みなどが絡み合う、とても良く出来た青春ストーリーだと思いました!1話ごとに各登場人物視点で話が区切られているため、同じ時系列の中で誰が何を思って行動しているのかが俯瞰的に見ることができ、それぞれに感情移入してしまうがために、読者も同じ目線で青春を味わうことができます。初々しくも輝かしい未来を求めて奔走し、悩み抜き、全力で駆け抜けようとする学生たち。社会や大学という場を経て、切ない過去という名の鎖を足に枷ながらも、前を向こうと努力する成人たち。彼ら彼女らが懸命に恋を求める先に何が待っているのか――それは是非、読者の皆さんの目で見届けてほしいです!さあ、今こそ甘く切なく、応援したくなるような青春の舞台へ参りましょう!”
この匂いを、確かに覚えている。記憶が迸って止まらなくなる。夕立に降り込められた駅舎から見る、藍色の空。雲間からうっすら差し込む光。消毒薬の香りがするプール。日焼けの跡が残る背中。いつの日か、見た景色、いつの日か、かいだ匂い。大人に見られたくて背伸びした。大人と言われながら、中身は大人なんかじゃなかった。研ぎ澄まされたセンスで、丁寧に紡がれた文章は重くないのに、しっとりした、上品な質感がある。しみ通るような韻律で味わう、あの頃の欠片。読むほどに、鮮烈に光景と匂いが広がっていく…。景色が、匂いが、あの恥ずかしくて、必死だった夏がそこにある。渇望するほど、誰もが誰かを求めていた。なのに、すれ違うばかりだった。
皆さんにとって、青春の思い出とはどんなものでしょうか。あの頃は楽しかった、充実していた。そうおっしゃる方が多いかと思います。でも、青春って、本当にそれほど優しいものだったでしょうか。今より多感だった私たちは、楽しくて幸せなことも多い代わりに、苦しみ、傷つくことも多かったのではないでしょうか。 この小説は、読者をそんな青春時代へと立ち返らせます。色彩や匂いまで感じさせる、鮮やかな情景描写が私たちを作中の世界に引き込み、繊細な心情描写は知らぬ間に登場人物に共感せしめます。彼らの必死な想いが手に取るように伝わってきて、ありふれた日常にさえ魅了されてしまいます。そして読了後には清々しい後味と、ノスタルジックな感傷を残していくのです。圧倒的な表現力の前に、我々は「日常は良い」と呟かざるを得ません。 辛くて苦しくて、少しだけ甘い青春。本気で喜び本気で悩んだ、あの頃の気持ちを取り戻してみませんか。