評価:★★★★☆ 3.8
ある朝目覚めると『僕』の体はおもちゃの人形になっていた。
あるのは人間だった頃の記憶と、洋上に積まれたガラクタのみ。
手を変え品を変え体を変え、様々な手段でもって洋上からの脱出を試みる『僕』。
海を渡り、陸を駆け、自らの体を探し求める『僕』は、多様な存在と接触を重ねていく。
友人、同類、異物、そして害意をもった敵。
それらに対して、時に立ち向かい、時に逃避し『僕』は少しずつ自分の体へと近づいていく。
目的は体だけではない。自らの尊厳を取り戻すため。
ちっぽけで小さな『僕』の旅路の先にあるものは、果たして希望か。カクヨム、ノベルアップの方でも投稿してます。
7/12 最終話公開。
読んでくださった方ありがとうございました。
これから読む方はよろしくお願いします。
話数:全43話
ジャンル:アドベンチャー
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
その他要素
注意:残酷な描写あり
気付いたら自分はゴミ山のおもちゃ人形、そんな場面から始まる今作。 まず読みやすい。描写の文量が適度で三次元的な映像がしっかり浮かんでくる、そういうシンプルな良さを持った作品だと思います。変に背伸びしない、違和感のない運びは好印象です。 ストーリー自体も明快でわかりやすいものになっていて、中学生にも理解できるレベルです。それゆえに作品の謎、「なぜ?」「どういうこと?」が際立っていて先を読む楽しみ、想像する楽しみがいい塩梅に刺激されます。 これは、私たちの日々の鬱屈を晴らすための消費的な小説ではなく、その世界に入り込むことの出来る『寄り添うタイプ』の小説です。 ここまで書きましたが私のレビューでは魅力をほとんど伝えられていないでしょう。ですので、是非ご自身の目で体験してみて下さい。
この世界は暗く、鈍い光沢と情念を帯びている。物語の主人公である少年は、ふと目を覚ますと、自分が、一体の粗末なゴーレムになっていることに気が付く。しかも、目を凝らせば、周囲には鉄くずの山――この時、現実認識から逃避する、理性の揺らめきをはじめとして、彼の思考回路は、恐ろしげなリアリティーを帯びている。しかし、その葛藤も、喉元過ぎれば。肉体の構造に引きずられたのか、不気味な落ち着きを纏う主人公は、様々なロボットの部品を組み入れて、最適な生存を目指す。そこには、倫理や道徳の入り込む余地はない。ただ、黒い血潮が通う、生命の律動がある。野生だ。ここには、機械仕掛けの野生が存在している。破れた銅線の束のように、規則的に散らばって広がる、剥き出しの意志がある。……この物語に、わかりやすい救いや、筋書きはない。しかし、それでも尚、闇の中に沈めておくには惜しい物語だ。是非とも読んで欲しい。