評価:★★★★☆ 4.4
夏休み中につき、おんぼろアパートでのんびり過ごす主人公。このアパートに住む隣人たちはみな現代に生きる妖(あやかし)だが、主人公から見た日常はまさに平和そのものである。
主人公の恋人である雪女はバイトに明け暮れているし、金髪褐色ギャルの河童は海辺で逆ナンばかりしている。猫又はのんびり町内を散歩し、アパートの管理人さんはいつも笑顔だ。
ところが雪女には何やら心配事があるようで、主人公に内緒でいろいろと画策しているらしい。実は主人公には彼自身が気がついていない秘密があって……。
ごくごく普通の「僕」と雪女によるラブストーリー。
「僕」と妖怪たちの視点が交互にきます。「僕」視点ではほのぼの日常、妖怪視点では残酷な要素ありの物語です。ホラーが苦手な方は、「僕」視点のみでどうぞ。
この作品は、アルファポリスにも投稿しております。
また、小説家になろうで投稿しております短編集「『あい』を失った女」より「『おばけ』なんていない」(2018年7月3日投稿)、「『ほね』までとろける熱帯夜」(2018年8月14日投稿) 、「『こまりました』とは言えなくて」(2019年5月20日投稿)をもとに構成しております。
話数:全30話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:残酷な描写あり
子供の頃、見たことはありませんか?テレビアニメで、いろんなタイプのキャラが出てきて、ドタバタして面白かったり、話によっては胸がきゅっと締め付けられたり。こちらの作品はそういったタイプに感じます。ときに恐ろしく、けれど優しいキャラクターたち。お話も滑稽なものもあれば、何だか考えさせられるものもあって、お気に入りのエピソードを探すのも楽しみです。続き物のマンガや小説を読んだときに、「あーあ、読み終わっちゃった」と思ったことはありませんか?今、私はそんな気分でいます。光輝く日向から、日陰へ引っ込んだときの気持ちに似ています。日陰だけれど、太陽熱がまだ残っていて温かい、……そんな気分です。
ひたすらに善人である「僕」と、郷愁溢れるアパートに住む妖怪たちの交流を軸とするこの物語は……。とても優しく、滑稽に残酷で、なにより涼やかだ。しかし、ホラーでもある。それは、これを読むあなたの心を映すからだ。妖怪たちの仕打ちに「恐れ」を覚えるなら、あなたは自らの所業を振り返らねばならないだろう。彼らは見ている。不変の倫理を害するあなたを害すべく。妖怪たちの在り方に「畏れ」を感じるなら、あなたはその生き方を一層心がけるべきだろう。彼らはそこにいる。普遍の倫理を守るあなたを守るべく。そう――この軽快な物語を楽しむうちに、いつしかあなたは自然と、自らを省みることになる。――連綿と世に伝わってきた、純粋な「正しさ」……。それを体現する妖怪たち――その恩恵を受けるに値するかどうかを。そうして、己を省みるあなたを――。彼らはきっと、迎えてくれるはずだ。
人間と妖怪の恋は成就しないものである。異類婚姻譚の行き着く先は、多くの物語において別れが描かれる。ましてや、雪女と人間の恋だなんていうならなおさらだ。一方で、人は他者と分かり合えるだろうか。当たり前だけれど、他人の心を読み取るなんてできない。同じ体験をしていても、考えていることは違うでしょう?それが、妖怪と人間ならきっとなおさらだ。だからこの物語は妖怪と人間、二つの側面で語られる。たった一人や、二人だけでは、その隔たりを埋めることはできないだろう。雪女と人間の、離れてしまうさだめを繋ぐものがあるとするのなら、その一つはきっと少しだけ優しく、気の良いものたちの縁である。そんな優しい糸で、この物語は織り上げられていると思うのだ。気のいい妖怪たちに会いたくなったら、ぜひ『メゾン・ド・比嘉』へ。一癖も二癖もある妖怪たちが、きっと温かく迎えてくれると思うのです。
おんぼろアパートの登場人物を大別すると……管理人。住人。そして来客者。三者三様の思惑が織り成すほのぼの日常ファンタジーである。同じ出来事でも視点が違えばガラッと別物。何気ない言動に隠された深い意味。可愛らしい行動の裏に潜む狂気。いや、それを狂気と呼ぶのはおかしい。人間の日常と妖怪の日常は違うのだから。それぞれの日常が交わる場所。それが妖怪アパートなのだ。謎多き住人達。しかしもっと謎なのは主人公だ。秘密が明かされる時は来るのか!?クライマックスは近い。