評価:★★★★☆ 4.3
これは悲劇か。それとも喜劇なのか。
ヴェストリア国王の重臣の娘にして侯爵家の令嬢でもあるレオノーラは、半年前から王太子エリオットの正式な婚約者だった。ところがある日、エリオットは国王とその廷臣らがそろっている場でレオノーラとの婚約を破棄したいと言ってのける。
その理由はとある子爵令嬢に恋をしたからで、動揺する国王と廷臣らをよそに、エリオットは彼女を自身の伴侶にしたいと主張し出し――。選ばれなかった女の復讐とその顛末。
話数:全51話
ジャンル:純文学
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:異世界
注意:R15
強い光が有るほど影が際立つ。人間の愛憎。相手に対し情を持って接するほど、その情が深いほど。裏切られた時は心に、より強い憎しみを抱く。まさに主人公レオノーラの行動はこれに尽きるのではないか?興味がなければ、情がなければ対象が何をしても心の針は動かなかった。愛していたからこそ、その人生全てを掛けたのだと思います。壮絶な鮮烈に焼き付くような生きざまが、レオノーラの愛情深い一途な心を表している。太陽のように、自らの全てを掛けて輝いた女性。そんな女性の生きざまを是非見て欲しい。
裏切りは愛がなければいくらでも許せるでしょう。自分に被害が及ばなければどうでもよいことです。けれども、裏切り行為こそが愛をもっとも貶め、そして持続させてしまうもの……かもしれません。よくある婚約破棄ものとしてはじまる冒頭から、ヒロインは冷静に物事の収集にあたります。何がもっともよい方法なのか、いちばん冷静に、大局を見据えて。そこに湧き上がる怒り…それは女性が女性だからと貶められていた怒りなのかもしれません。事実ヒロインのレオノーラも、何度も周囲の男性におまえが男なら、と嘆かれます。男でないから?いいえ、女にこそ、女だからこそ、怒りはけして揺るがない。愛を踏みにじられた怒りを誰も知らず、誰も共有しなかったことこそが、彼女を復讐に駆り立てたのではないでしょうか。美しく燃える彼女の心の襞を探る旅に出ませんか?素晴らしい旅になることを、お約束できますよ。
まさかこんな文学作品に出会えるとは思っていませんでした。導入は、よくあるざまあ系かと思ったのですが、主人公のキャラクターの苛烈さ·個々のキャラクターの確立·あっさりしているものの深い事をうかがわせるルネサンス的時代背景と文化設定。どれをとっても読んでいて臨場感が素晴らしく、時間を忘れて読み耽りました。そして何よりその結末。その瞬間は、登場人物と同じように自分もその場に立ち尽くしているかのような衝撃でした。読み始めたらおそらく皆様最後まで読まれると思います。是非、ご一読ください。
深く愛していれば、裏切りを許すこともできる。でも逆に、深く愛しているからこそ裏切りが許せないこともある。王妃レオノーラは後者でした。誇り高く、王家よりも価値ある家に生まれたレオノーラは、そのたった一度の裏切りを許せなかった。深く愛していたから。許すべきだと思うし、多くの読者がそう願ったことでしょう。何故彼女はそうまでして許せなかったのか。他の道はなかったのか。何が最善で、どこからが不可逆の流れなのか。アンナ・カレーニナがどうして破滅したか、その謎を多くの読者が未だに議論しています。それと同じく、レオノーラの選択が議論されることになるのではないでしょうか。愛していたのに、許せない。愛していたから、許せない。深い愛憎の世界に、ようこそ。
わたしの罪は、あなたを愛してしまった事。あなたの罪は、わたしを愛さなかった事。婚約者がいるのに、別の人の手を取った。決められた相手がいたのに、別の人を選んだ。愛されていたのに、それに気付かずに。政略結婚でも、愛は生まれる。政略結婚で、新たな縁が生まれて、更に絆が強くなる。結末が悲しくなければ、どんな愛もどんな恋も悪いとは思わない。政略結婚で生まれた縁を、真実の愛という曖昧なモノで、縁を断ち切ってしまうのは、悲しい結末も過程も生まれてしまう。それでも、彼女は裏切れようとも、彼を選んだ。例え、彼が彼女を愛していなくても。未熟な愛でも構わずに。裏切りは許されず、だけど、復讐は悲しみしか生まれない。恨みが継続されていく。最後の最後に、悲しみしか生まれない結末を選んだ彼女が、今度こそ幸せになりますように(T人T)