評価:★★★★☆ 4.1
目が覚めると巨大スズメバチに運ばれていた。喰われる前に死のうと思った。灰色で泥まみれで化物だらけの地上。救われて上がった天空は、色とりどりの髪と瞳がまばゆい魔法の世界。けれど楽園とは違う。違ったんだ。//魔法万能世界でただ1人魔法無能の主人公は、頻繁に脱衣しつつ次第に化物と化し、やがては討伐軍が編成される。それを指揮するのは……彼の最愛の女性。
話数:全83話
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:ハッピーエンド
注意:残酷な描写あり
わかりやすく紹介すれば「火刑戦旗」の作者の旧作。古い作品だが、今でも時々読み返す大好きな物語だ。惜しむらくは終盤の駆け足など構成の粗さだろうが、物語に引き込まれ、鳥肌が立ち、涙が頬を伝うほど心揺さぶられた事は未だに心に残っている。小説が人に感情を与えるためにあるのなら、己の心の深い所に強く刻まれた名作であろう。この方の作品を読むと、心の中に『闇と火』が浮かぶ。夜の闇の中、焚き火を囲みながら語られる物語。そういう印象だ。主人公は最初ヘタレており、理不尽な世界で多くの悲劇に哀しみ、怒り、慟哭し、やがて怪獣と化す。対するは最愛の女性、天空の覇王。神話の如き光景だが、そこに至るまでには歴史に語られぬ人の心が積み重ねられている。感情移入し、悲劇に嘆き、苦悩を経て、『漢』として成長した姿に誇らしくなり、そして最後の救いに心が歓喜の声を上げる。時間を忘れ一気に読み耽る、未だに忘れ得ぬ物語だ。