評価:★★★★☆ 4.4
【業務内容】護衛、あるいは殺人。【週休】不定期、あるいは無し。【月額報酬】平均十三円。 ――明治中期、国内最悪の治安を誇る島に住まう主人公・井澄は、異能の術師や傍流の剣士がはばを利かせる中で争いを仕事場に生きている。そして暇さえあれば職場の上司たる少女・八千草に求愛し、すげなく流され、けれどめげずに生きている。……偽史の明治を舞台とした、色恋と刃傷と狂気の沙汰。
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:ダーク
展開:未登録
架空の明治を舞台に異能と異能がぶつかり合う様は近代のアクションにはない、どこか郷愁を伴った魅力を持っている。それを存分に活かし切る文体と言葉。物語の歯車は絶えず動き、登場人物たちの信念や命で以ってそれらは回っている。終盤に進むにつれて加速する物語。勢い、回収されていく伏線に驚嘆しつつも、それを読みに戻ることは出来ない。それよりも先が読みたいと気づけば次を読んでいるからだ。読み終えればまた違った角度から物語を見ることができる。そこには初読の時には感じ得なかった登場人物たちの様々な想いが詰まっている。それを巧妙に、実に絶妙に書ききる手腕が素晴らしい。これは、運命の歯車に翻弄されながらもそれを回す宿命を背負った者達の数奇な物語。
最初はやや硬質の文章からとっつきにくい、とあなたは思うかもしれない。だが五分読めばその印象はガラリと変わるだろう。 物語の時代、それは架空の明治。古式の伝統と新しい西洋の風が絡み合うエキゾチックな空気。それを見事に描写しきる筆力が素晴らしい。 物語の舞台、それは一つの島。日本本土から隔絶された島では命の値段が安く、チップ代わりに行き来する。剣で、刀で、拳で、異能で、魔術でそれぞれがそれぞれの命の火花を散らせる。そのはかなさが美しい。 物語の主役、それは一人の青年と一人の娘。数奇な運命に翻弄されながら、体に心に傷を負いながら、それでも笑顔を忘れない二人。その姿が心に沁みる。 激しい異能バトルを縦糸に、切ない想いを横糸に織られるは未来へと続く永遠のタペストリー。
その凄まじい、凝りに凝った設定で魅せる、【異能世界観】本作はそれら四作品の中で、最も濃密なストーリー展開をしている。細部まで丁寧に、磨き上げられた描写――流麗な文章は語るまでも、言うまでもなく。隙の無い時代考証・考察により、当時の雰囲気を忠実に再現。偽史として再構築しつつも、”異能”というスパイスを加える事により、奥深い味わいを生み出している。さりとて、固くなり過ぎないよう――”言葉遊び”を駆使し、絶妙な笑いと独特の雰囲気を演出。キャラクター造形も緻密で、誰もが主役と云っていい程の強い個性と、魅力を醸し出している。鮮やかな伏線回収は、思わず感嘆の息が漏れる程で、上質なエンタメ作品として、まさに一線を画していると云えるだろう。鮮烈なる魂の燃焼。眩き刹那の輝き。群像劇の精華。”物語”の極致に、この作品は確かに――確かに在る。