評価:★★★★☆ 3.9
此の文章は一九○八年、ルブランシュ大学の学会誌「考古学年報("la Revue Annuelle de l’Archeologie", vol.56)」に掲載された至極短い発掘記「スウ・クツク遺跡群発掘記("la Fouille de Seu-Couque")」を日本語に翻訳した物で在る。彼の発掘記は学者のものとは思えぬやうな非科学的な代物で在り、掲載を許した大学と史学科は轟々たる非難に晒されたものゝ焚書を免れ今も仏蘭西各地の大学図書館の奥地で埃を被つてゐる。
處が、其のまゝ埃を被せてゐれば世の平穏も守られたものを態々埃を掃って訳者の下に持つて来た筋金入りの物好きがゐた。地方国立大に勤める訳者の友人である。留学中に彼の学会誌を見出した彼は此れを大層面白がり、此れを日本に広めてやる巧い手は無い物かと、斯う考えたのだ。
其の内容は訳者に取つても俄かには信じ難い物で在つたが、己の職分に従ひ、原文に忠実な翻訳を心掛けた。
話数:全18話
ジャンル:その他
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
この作品は、ある学者の遺跡の発掘記だ。とつとつとした語り口、当時の時代に合わせた表記で記してあるので難しく感じるかもしれない。それでも、学生が下痢をしただの、そろそろ帰らないと家族に愛想を尽かされるなど筆者の状況も合わせて書いてあり、どこか学者に親しみを覚えていく。勿論、遺跡の発掘記であるから解くべき謎が隠されている。少々オカルトじみた、しかしおどろおどろしくない美しい二人の若者の愛の物語。だが、そこに至るまでには、「ロミオとジュリエット」のような憎しみによる策略を使った悲劇があった。固定された視点を巧みに操り、一つの事実を浮かび上がらせる手法は作者の技量がなせる業だろう。読み終わったとき、胸に去来するものは読者自身で確かめて欲しい。