評価:★★★★☆ 4
VRMMORPG『In this world without music』。音楽が存在しないと言う特異な設定のためにプレイヤー達がその創造に力を注いだ奇妙なタイトル。社会現象を巻き起こすほど巨大な存在になったのも今は昔。このタイトルも今日、終わりを迎える。サービス最終日に開催されたラストコンサート。魔物たちの楽団が奏でる幻想の交響曲。一人、また一人と消えていく楽団員たち。そしてホールに響き渡る喝采の音を聞きながら、最後まで残った主人公は静かに目を閉じ――けれど、彼に終わりが訪れることはなかった。
雰囲気:未登録
展開:未登録
音質だけがいい、というゲーム。けれど、このゲームは音を作り出し、そこで奏でる音楽はすばらしい。曲を奏でるだけではなく、魔物を懐かせたり、怪我を治してしまうことだってできる。 まずはこの作品は音を大事にし、どのように奏でているのか、つい想像してしまい、口ずさんでしまうほどきれいな旋律を生み出している。作者が曲が好き、という想いで描かれていると現しても過言ではない。 曲という題材を小説にした物語もよいです。 たまには曲を聴いてみたくなりますので、どうぞ。
この作品には作中に幾つかのクラシックの曲名が入っています。登場人物がその曲を奏ではじめた時、同時にその曲をかけ始めてください。きっと聴衆とシンクロし、同じように曲に耳を傾け、感動し、余韻を共感できると思います。 さすがにこのためにCDを購入するというわけには行かず、多くの人はYouTubeのお世話になると思いますが……
この小説の最大の特徴は、歌声や音楽が中心テーマになっているということです。「音楽こそが力を象徴する」MMORPGという設定により、ストーリーの中に自然な形で音楽が織り込まれています。それらはどれも実在の音楽であり、YouTube等で実際に聴いてみたくなること請け合いです。 この小説の魅力はそれだけでは有りません。好感を与えるキャラクター・流れるように展開するストーリー・緻密な音楽の知識による文章表現、これらが一体となって感動的な作品を生み出しています。音楽好きという共通項を持ちながらも個性あふれるキャラクターが生き生きと描かれ、ぼのぼのとしていながらも予想外のストーリーが丁寧に書き上げられ、歌声・音楽への真摯な愛情に満ちています。 音楽に関心がある人だけでなく、単なる異世界物に食傷気味の人にも是非読んでみて欲しい小説です。