評価:★★★★☆ 4.1
司法が死に、宗教が廃れ、モラルが腐った終末の時代。
海はヘドロに沈み、草木は枯れ果て、太陽はガス雲に遮られた。
紫外線を奪われた人々のほとんどは灰色に退色し、僅かに残った有色の人々は纏わりつく資産価値に怯えながら過ごしていた。
全てが朽ち果てた世界に1つの新しい娯楽が生まれる。それは企業が提供する"他者の記憶"だ。
企業は弱い人々を殺して記憶を奪い、弱い人々は民間軍事企業から傭兵を雇う事で歪な安寧に身を委ねていた。戦争と呼ぶには矮小な諍いが跋扈し、悪意によって戦火が撒き散らされた世界。
やがて世界は1つの答えに辿り着いてしまう。何もかもが退廃した終末の世界で、死に損ない達の終末劇の幕が開かれる。
終わらせるのは誰の答?
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:ざまぁ
――「灰色」の世界には、「灰色」の硝煙が良く似合う。「灰色」の世界には、神はいない。何故ならそこで神は野垂れ死んでいるからだ。前作〈D.R.E.S.S.〉――レイ・ブルームス達の戦いとはまた違った、精緻に造り込まれたSFガジェットと、硝煙の立ち込める世界に生き、戦う男達のレクイエム、それが本作、〈Actors On The Last Stage〉だ。長編SFものの王道を踏襲しつつ、アウトロー気味な主人公達が切った張ったの世界を生きる……最高に燃え滾る様ではないか、これは。規範の腐り果てた世界を生きる男達に、自分は震えた。だからこそ言おう。震えろ。震えるのだ。血塗られた世界に、震えろ。
巧緻なキャラクター造形、徹底した心情描写、ガジェットと世界観の斬新さ、高度なストーリー構成。その圧倒的クオリティから、伝説的SFと謳われた作品『D.R.E.S.S.』。そして、彼の大作を産み出した氏が手掛けるは――世紀末のハードSF活劇。クライムアクションの”ブラックラグーン”を想起させるド派手なアクション。パワードスーツ乗りと傭兵達の凄絶で苛烈な闘争。戦場に立つ美少女。凄腕のガンマン。そして、彼らに立ちふさがる最凶の殺戮者達。誰もがこの盤上で踊るに相応しき代行者。【世界】を手にする資格を与えられた役者達。最後に、これは新人賞を目指す方にお勧めである。舌を巻くほどの構成と文章は、大変勉強になるだろう。特にSF作家を目指すものにとっては、これ以上ないバイブルになると確約する。さぁ、演目ラストステージ。その終幕を見届けよ。