評価:★★★★☆ 3.9
広大なその大地は、後に製図した者達が、
「まるで正面を向いた牛のような」
と筆を走らせるほどに奇妙な形をしていた。
両端は南へ下がって海に面し、中央は顔のように大きく広がり口を象るかの如くその南部には大河が流れ込む。その左角、最西端に位置する半島、順門府を司る鐘山家において、骨肉の争いが始まる。
父を殺した叔父の追っ手より嫡子、環を救い出したのは、不老の尼僧、勝川舞鶴。
世にも怪しげな彼女の手に誘われ、青年は戦国の世に、異形の才を開花させていく。※外伝「乱のはじまり」は諸事情によりタイトル変更のうえ、独立させました。
話数:全70話
ジャンル:エピック・ファンタジー 異世界ファンタジー
時代:戦国時代
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
講談や演義物のような軽妙さを持った樹治名将言行録~鐘山環伝~は、題のとおり鐘山環を主人公とした戦記物です。父を殺された環がさまざまな人や問題にぶつかり合いながら成長していゆく姿は、若さという可能性を感じる反面、眩しくもあります。そして、その眩しさに見とれるあまりに道を外す者もいます。この物語の良いところはそのような、敵や味方といった複数の人々の思い、叫びを感じられるところにあります。それゆえに本作のタイトルは『言行録』なのでしょう。とても不器用で人間臭い泥臭さを感じたい。そう言う物語が読みたい、という人はこの作品を読んでください。秋の夜長にはちょうどいいはずです。