評価:★★★★☆ 4.2
異世界に迷い込んだ、二人の男女。
流転する運命に弄ばれ――彼らは――「お前、自分の女を助けたいんだろ? なら俺がお前を助けてやる」
「唯笑(ゆえ)、笑ってくれ。な? 唯笑は、笑ってなくちゃいけない? そうだろ?」
「ユウちゃん……教えてよ。狂ってるのは、私なの? それとも、この世界なの?」ただ一つ、出来ることがあった。
狂ってしまった彼女に対して、無力な僕にも出来ることが。*異世転移ものですが、ファンタジー要素の少ない世界観となっております。
*直接的な残酷描写は控えておりますが、暗い物語が苦手な方は御注意下さい。
時代:未登録
舞台:異世界
チートもなければ、ハーレムもない。ここにあるのは、たった一つの生き方。『人の間』を外れた者の生き方だ。人間にとって最大の敵とは何か。それは『理不尽』であると私は思う。現実世界でも、理不尽は限りなく、我々の前に立ちはだかる。果たして、それに勇気を以て立ち向かえる者がどれだけいるのか。そもそも、理不尽に対してどのように向き合えばよいのだろうか。のっぴきならない苦境に立たされ、転がり落ちる己の運命に、しかし人はいずれ、決着をつけなければならない。どんな形でも、決着をつける。それって、悲しくも素晴らしいことなんじゃないだろうか。つまりなにが言いたいかと言うと、この作品は傑作であるということだ。あらゆる異世界転移物が蔓延する中で、胸を張って断じようではないか。これは、傑作である。
異世界に転移されてしまった、二人の男女。本作は、その二人の悲恋を描いた作品だ。流麗な文章は、たとえ文学畑のプロの現代作家でも及ばない程に洗練されている。それだけ、純文学に全てを捧げてきた私はため息が出る。しかし本作の美しさは、その練りこまれたプロットにある。また物語の根底に流れる思想、哲学、そのどれもが一級品であり――本作は小説を文学を超えて、一つの芸術の域にまで達したといって過言ない。しかし物語はある意味、陰惨で沈鬱で、途中読むことを投げ出してしまう人もいるかもしれない。だがその凄絶な物語は、最後の二行の為に存在する。どうか最後まで読み進めてほしい。そうすれば……。あなたはかつてない、読書体験に祝福されるはずだ。あまりにも、あまりにも芸術的な本作。願わくば本物の小説を、もっと多くの人に体験してもらいたい。
この物語を紐解く上で、キーワードとなるのが『カタチ』だ。それは人であり、心であり、そして――愛。少年は歪んだ世界に染まり、やがて透き通って見えなくなっていく。かたや少女は『カタチ』を保とうと、砕け散るまで自己を滅して気高く抗う。他のそれを壊してでも、自らの望む『カタチ』を守るために。心を壊してでも、愛する人のために。これは自己満足であろうがなかろうが、愛という『カタチ』の最終形のひとつだと、私は思う。もちろん、人のよって解釈の違いもあるだろうし、読み取る想いは幾多にも枝分かれした木々のように違ってくるだろう。だからこそ是非この作品を読み、読み上げたうえで、その答えを聞かせて欲しい。あなたは愛する人のために――愛する人を、殺せますか?そして、殺された上で尚――愛を語れますか?
仲のよい男女が異世界に迷い込む。 よくある話だ。 ならば、その後は流転する運命にでも弄ばれて、最後は愛を確かめ合えばいい。 それで、皆救われるのだから。 それが、一番いいに決まっているのだから。 ユウは、特殊な力の一つも発揮しない。 唯笑は、無尽蔵の愛を持たない。 紫色の空の下。 言葉の通じない異邦人と、奴隷文化と、娼館だけが二人に与えられた異世界。 何もない二人が、生き延びるためにすり減らすことができたのは、自分の命とお互いを想う心だけ。 恋人の明日を守るために、誰かの明日を奪う。 いつかは、自分の明日をどこかに置いて来る。 残酷だ、と、一言で片づけたくない。 運命だ、と、二人を突き放したくない。 生きる理由を愛に求めた二人の結末を、祈りながら読む。 本当に異世界に迷い込むとはどういうことかを、真剣に書かれた御話です。 連載中。結末を、一緒に。
この作品はダークファンタジーです。 ですが、ただ暗いというわけではありません。 その中には、このレビューのタイトルにも書いてあるように、『美しさ』というものが随所にちりばめられています。 例を挙げると、主人公の恋人である「唯笑」という存在がそれにあたります。 唯笑の容姿・性格、主人公の唯笑に対する想い、主人公と唯笑が言葉を交わす場面……どれも美しいと思いました。 また、主人公の行動原理が「唯笑」を軸にして成り立っていると言っても過言はありません。 唯笑がいなかったら、主人公はおそらく殺しなどせず、奴隷を続けていたと思います。 最後に、この作品に対する他のレビューでも触れられていることですが、何と言ってもこの世界観を演出する文章が素晴らしいです。 一風変わったこの作品……一度読んでみてはいかかですか?
これはなにも文章評価。ストーリー評価だけじゃありません。誰かを想う心なら一番という意味です!確かな文章力を持ってるのに。純文学由来ゆえどうしても万人受けするのが難しい文章。だけど一番芸術に近い小説家だと思います。きっと彼にしたら私たちの文章なんて歯痒さで一杯かもしれません。それでも他の作品が読まれる様にレビューを一番書く彼の優しさに私は感動しました。この度彼が今連載してる小説をレビューさせていただきますが本当に紹介したのは彼自身です。この素晴らしい心を持つ小説家の努力を、優しさを、文章を、どうか汲み取って頂けたらと思います!私が絶対の自信を持ってお勧めする小説家です!