評価:★★★★☆ 4.4
『きみ、なんで火がお口から出てるの?』『……へーぇ。オレの火がみえるんだ』幼い日、墓石の陰から現れた妖しい子に、山内くんは命を救われた。小学校六年生になった山内くんは緑豊かな兵庫県山奥の町で、その子、十妙院家の紺(こん)に再会する。しかし今度は“仲間”にひきこまれ、この世ならぬものが見えるようにされてしまう。そのために事件につぎつぎ巻き込まれ、さらに、自分が以前から誰かに呪われていたことを知る。『心配するな、オレが守ってやる』紺は胸を張るが、その胸はふくらんでおり、ずっと彼女を男の子だと思っていた山内くんは困惑せざるをえず……?
狐と禁呪、恋とおまじないの青春オカルティックファンタジー。書籍化決定しました。角川ホラー文庫様から出版します。
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
続編からして面白いから読みました。その描写力もさることながら、巧みな構成でグイグイ読ませます。基本短編の連続ですが、嫉妬や妄念、民俗学的な蘊蓄のようなホラーならではの要素がエンタメと上手く混ざり、どの話も面白いです。物語に無駄な要素がなく、終盤のどんでん返しは見事の一言に尽きます。またヒロインの祝詞がカッコいい。おすすめ
“『ひと ふた み よ いつ むゆ なな や ここの たり……』この町で夜に数を数えてはいけない。この世の者ではない穢れを引き寄せたくなければ……さて、そんな田舎町が舞台の物語です。特殊な体質の主人公に、呪術を扱う家の麒麟児がヒロイン。子供ならではの視点から、町に潜む怪異と向き合っていきます。やがて彼らは、話題になっている神隠しにも迫っていき……――というお語なのですが、この作品の凄さは””死角のなさ””でしょうか。冒険・悪霊・呪い・恋・事件・戦闘……。様々な要素がホラーを軸にして、高い完成度で纏まっています。丁寧に綴られた描写が作品の世界に浸らせてくれ、あなたも等身大の臨場感に感情が揺らされることでしょう。もし少しでも興味が湧いたのなら、ぜひ他の方が書いたレビューにも目を通してみてください。私などより、よぽど上手く作品の紹介をされていtらっしゃいますよ。”
見た目は可愛い美少女だというのに、それを感じさせない悪ガキみたいなノリ。男の子達のリーダーになったり、悪戯したり、男装したり、かと言って漢らしいばかりかといえば違います。思春期に入りたての心の揺れ動き。更には恋の芽生えた女の子特有の可愛さが加わります。危機を乗り越えるに連れて、いつの間にか大切なパートーナーになっていた2人の話を、これからも見ていきたいものです。
読者にひたすら恐怖を植え付ける、そんなホラーもあるだろう。だがこのシリーズは一線を画す。単なる怖さだけでなく、小説としてきっちり面白いのだ。狐面の少女、降りかかる災厄の数々、不吉な夢、呪術、縛られる血筋……里山の因習に巻き込まれ、ほの暗い闇へと向かう。民俗学的基盤がしっかりしている為、純度の高い仕上がりになっている。湿度の高い恐怖も最後は綺麗に収束し、頁を閉じると憑き物は落ちる。ワクワクするホラー、何度も読み返したいホラーなんて初めてだ。主人公たちは小学6年生だが、芯が通っていてそこらの大人よりはるかに格好いい。避けられない状況下で流されず、未来を決めて踏み出していく。続編では中学生に成長。ほんのり恋愛もあって、青春小説としても楽しめる。怖がりな自分にとってホラーは鬼門なのだが、生涯手離せない本として脳内書棚に迷わず追加。ぜひとも長くシリーズ化して欲しい。
続編も含めて一気読みし「この作者には一生勝てない」という絶望に打ちのめされた。流れるような文章、豊かな表現力、魅力的なキャラクターと完璧なプロット。創作に必要なすべてを揃えていながら、この作品はそれらのいずれに依存することもなく使いこなしている。 伝承をモチーフにした部分はあるが、しかし単純なエピソードやキャラクターの引用に留まらぬ作者自身の深い考察がなされており、妖怪と民俗学の融合という感触が素晴らしい。 この作品で、多くの怪異は白昼堂々と山内くんたちの前に姿を見せる。夜の闇が怖いのは当たり前と言えば当たり前だが、太陽をものともせずに日常に滲み出てくる怪異は『夜が明ければそれで終わり』というような救いが不在であるが為の容赦のなさ、瞬間的な絶望感を与えてくる。 素晴らしい夏の情景の中、気付けば画面内に存在している……そんな息が止まりそうになるホラー描写を是非味わっていただきたい。
本作は「ジンニスタン」や「きつねよめ」の作者として知られる二宮酒匂氏が送る『狐と禁呪、恋とおまじないの青春オカルティックファンタジー』である。そう、少なくともあらすじにはそう記されている。しかし、この作品はそれだけで表現しつくせるものではない。 なぜならこの作品は、紛れもない和のファンタジーであり、呪いを生業とする血筋を背景としたホラーであり、少年のひと夏のビルドゥングスロマンであり、可憐で溌剌とした狐っ娘とのボーイミーツガールであり、細部に至るまで周到に組み上げられたミステリであり、のどかな夏休みからふっと闇へと転げ落ちるサスペンスであり、それら全てを高いレベルとバランスでまとめ上げた、極上のエンターテイメントなのだから。 読者として愉しむもよし、作家として作劇のお手本のごとき作品を堪能するもよし。読後の余韻もさわやかな本作は、きっと貴方にとって忘れられない作品になるだろう。
田舎の方にある不可思議な風習それが本当に何かの魔除けなんだとしたら…そう感じさせるボーイミーツガールな小説です。主人公の変な名前やヒロインのおかしな格好など、ちょっと怪奇物が好きな人なら聞いたことがある呪いから、詳しく調べないと出てこないようなディープな呪いなどニヤリとするような事がたくさん出てきます。地方の方言や訛りが一部出てきますが読めないことはなく、この時期には素晴らしく合った小説だと思いました。ぜひ、このまま季節が進んで冬の怪異ってのも読みたくなるような。そんなお話しです。