評価:★★★★☆ 4
これは村娘の私が魔王と呼ばれる存在となり、勇者に倒され、処刑される。
悲劇とも喜劇ともつかない、悲しくも愛しくもない、そんな話だ。「村さえ、なければ……母さえ、いなければ……」
「クリスさん! どうして! どうしてですか!?」処刑される時は出来るだけ沢山の人に――憎悪に迎えられると良い。
森の嵐のように、どよめく人々の嘲笑。礫のような罵倒。泥を投げつけられるような誹り。彼らの声が大きければ、大きい程に……。
時代:未登録
舞台:異世界
雰囲気:シリアス
展開:未登録
人物たちの厳しい背景から、恍惚とした作者の筆さばきが心理描写の鼓動を想像させてくれる。堕ちた感情の波紋を水面にひいて、それをぼうっと眺めているように、文は気持ち良くつややかなのだけれど。厳ついテイストが棘となり、胸の奥底まで突き刺さる。ありありとした人物の心が息づき、それらを読み切った後の読了感は本物です。幻想小説が大好きな、私の心を揺るがした作品でした。かっちりとしたなろう作品を、あまり読んだことの無い方は是非どうぞ。
異世界の小さな村。働き手の父親を亡くした一家の母が、ある日、娘を売るようにして嫁がせます。その娘が本作の主人公、クリスです。保守的な村で、彼女を助ける人間はいませんでした。いたのは彼女に”お姉さん”としての幻想を持った少年、カルルだけ。やがて主人公は、魔王の力に覚醒させられます。自分を世界に生み出した存在――母親殺しの衝動のままに、世界を破壊する魔王として。物語はテンポよく進みますが、心理描写が巧みで過不足ありません。優れたアニメ映画を見るように、時間が過ぎていきます。読了時間も九十分。しかし出来るなら、ゆっくりと読んでほしい。目の動き、笑い方、一つ一つの言葉。そういった物から、本文で語られなかったもう一つの物語が見えてきます。本作の対になる物語「勇者と呼ばれた少年」の物語が。そして物語の終盤、勇者は民衆に向けて言うんです。レビュータイトルの台詞を。
エンディングにとっても泣かされましたなぁ。そして作品の全体の完成度は素晴らしいですなぁ。私が読ませていただいた作品の中で世辞抜きでなろうトップクラスですなぁ。まずはストーリーが秀逸! 心理描写、感情描写、人的流れのバックボーン描写を巧みに使い、精度の高いキャラクターの味をしっかりだせているところはグッドジョブ!作者さまの技術レベルが商業レベルまで磨かれているように感じます。この作者さまの作品は『魔王と呼ばれた女』をはじめ、他の作品も拝読させていただきたいなります。皆様、春の夜長、心に刻まれるような作品を読まれてみてはいかがでしょうか。