――私のお父様を殺めたのは、私の初恋の相手だった。
ファーティマが十六歳になった年に、アケメネス女王国の女王である叔母から少女の婚約に関する話題を持ちかけられた。婚約者は、西の隣国であるセレウコス王国の王子で、レザー、という名前の少年であった。叔母は、今回の件が政略結婚である事実などを包み隠さずに話してくれた事もあって、すぐに了承する。その日、兄のファルザードと夕食を共にしている時に、今、アスワドがセレウコス王国にいる、と兄の発言を耳にする。自分の知る限り、アスワド、という名前がつく異性は、一人しかなかった。しかし、三年前のある日を境に、幼馴染みの少年は行方不明になっていた。
それ故に、話の真偽を尋ねた途端に、首都の宮殿でアイツを見かけた奴がいる。だから、これでアイツを殺せ、と言った兄から短剣を渡された。
ファルザードが親友のアスワドにそこまでの憎しみを抱いている理由は、只、一つ。
それは、三年前に起こった兄妹が尊敬している父親が殺害される事件が関係していた。何故なら、父親を殺した張本人というのがアスワド自身に他ならなかった。
短剣を受け取ってしまったまま、後日、セレウコス王国の首都に到着したファーティマは、レザーの護衛官を務めているアスワドと再会を果たしてしまう。花婿の王子を介しながら、幼馴染みの青年と関わる中で、彼の事が今でも好きなのだ、と再認識させられる。戸惑いを抱えている最中に、自分達が旅に出る事になった、という話をレザーから聞かされる。婚礼を挙げる前にお互いの親族の家に訪問する、というセレウコス王国の慣習がある事を初めて知る。ただ、今回の場合は、花嫁と花婿だけではなく、炊事などの細々とした事を支えてくれる者達や護衛の者達も参加する。勿論、この中には、アスワドも含まれていた。
後日、首都を出発する。旅の道中で、アスワド、レザーの二人と密接に関わるようになり、彼らと親交を結んでいる者達と交流する過程で、彼に対する二律背反の想いに激しく揺れてしまい、ファルザードの願いに対する決断を下せずにいた最中に、ある事件に巻き込まれてしまった。様々な困難を乗り越えながら、事件は解決に至った事で、父親を殺害したアスワドへの自分なりの覚悟を決めた花嫁の少女は、ファルザードの願いに対する決断を下した。
果たして、アスワドに関するファーティマが下した決断とは、一体――
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