評価:★★★★☆ 4.3
長い膠着状態に陥っている戦争。
故郷に妻子を残し、異国の地の最前線で部隊を指揮する陸軍少佐・リーベンは、厳しい条件下での戦闘で負傷し、親友のダルトン軍曹とともに捕虜収容所に送られる。そこで、たった一つの情報をめぐって、冷酷な混血の尋問官・クルフ大尉と対峙することに。
容赦のない追及と拷問を受けながらも決して屈しようとしないリーベンと、自己の存在と能力の証明をかけて執拗に自白を迫るクルフ。
誇り、意地、使命感――様々な思惑と感情がぶつかり合う中で、二人はやがて己の人生に改めて向き合い始める。そして、最後にそれぞれが下した決断とは……。
雪に閉ざされた収容所で交差する男たちの生き様を描く、シリアス・ヒューマンドラマ。
※第17話から拷問シーンが入りますので、苦手な方はご注意ください
※カクヨムでも掲載中※本作品の著作権は著者である島村ミケコに帰属します。本作品の無断転載・無断転用を固く禁じます。
雰囲気:シリアス
展開:未登録
人は誰しもどうしようもないものに気が付かないうちに縛られている。過去も、現在も自分は戦ったはずなのに、もがいたはずなのにどうしてこんなにも寂しいのか。多くの人がそんなもの当たり前じゃないかと、簡単に言ってしまい、何かに埋もれてしまうこともある。それぞれの立場は結局相対的だし、どこまでも人はその立場/状況の中で煙のように消えていく選択肢を必死に掴んでいくしかないのかもしれないけど、それができない人間ははたして不器用なんだろうか?この物語の根幹はそんなどうしようもない世界(=自分たちの身の回り)の中で人は何にしがみついているのかを問いただしてくれます。これは実は彼の物語。気づき、悩み、もがいているのは実は彼。そしてきっとあなたの、僕の物語。立ち止まって読むべき物語。―雲の切れ間から差し込む柔らかく暖かな光。包みこまれていったのはきっと彼なんだろう。
これは戦争の話です。しかし、英雄譚や冒険の話ではありません。これは、かつて何処にでもいたであろう、愛国心を持った軍人達の話。また、こういうことは多かれ少なかれ、この現実の世界にも起きていたことなのだと実感させる、そういう力を持った作品です。 読み心地はまるで映画を見ているかのよう。それは、しっかりとした文章力とどっしりとした世界観、また細密な描写にあると思います。そして、そこで語られる人間の感情の変化や移ろいを追っていくと、どうしても「人間」と「戦争」というものについて、改めて考えさせられます。あまり多くを語れないのは残念ですが、是非読んでみてください。僕はここにお薦めします。
まるで戦争映画を見ているようなクオリティで綴られる人間ドラマです。派手な戦闘シーンこそないものの、作戦行動中に捕虜となったリーベンと敵国の尋問官クルフのリアリティ溢れる駆け引きは一見の価値あり。軍隊ものというとっつきにくい題材にもかかわらず、丁寧な情景・心理描写にどんどん引き込まれます。物語は理想の軍人像を体現したような陸軍少佐リーベンと冷静沈着な尋問官クルフを中心に進みますが、その一方で群像劇のような側面も。リーベンの親友であり共に捕虜となったダルトン、クルフの恩師であり元中央情報局員のシュトフ、愛国心と看護婦としての使命の間で揺れるイリーエナなどなど、いずれのキャラクターも人間味に溢れ、物語を彩っています。家族や仲間に対する想いを支えにいかなる尋問・拷問にも屈しないリーベン。民族主義の下で暗い少年時代を過ごした混血の尋問官クルフ。今後の二人の駆け引きの行方が気になります。