ナルシスト夫婦の適材適所

　この物語の第一話のタイトルは「目の前に死ぬほど好みな男が尻餅をついて倒れていた」である。　きっと殆どの人が思うであろう。これは一体どういう内容なのかと。　一言でいうならば入れ替わりモノ。　性同一障害者であるが、家族を悲しませたくないためにカミングアウトできなかった男女。　せめてと『心』にとっては本来異性である己の肉体を『理想の異性』に作り上げた二人が入れ替わったら、目の前にいるのは勿論――。　コミカルでリズミカルな会話で気持ち良く進んでいく物語。文章そのものも読み易く、笑いの要素も相まって次々と読み進められる。　その一方で込められたテーマも輝いている。性同一障害から他のことにも通ずる、登場人物の悩みや葛藤。　小説という舞台、入れ替わりという奇跡を用いてスタートする主人公たちの新たな選択。　エンターテインメントとしても文学としても楽しめる秀作だ。

ぶつかった拍子に互いの精神が入れ替わってしまうという、漫画のような冒頭の展開。しかし、全編に渡って描かれているのは、誰にも打ち明けられない悩みを持ち生き続けてきた苦しみと、理解者に出会えた喜び。粗筋でコメディ調な物語を想像されるかもしれませんが、それは大間違い。性同一性障害を題材にしていながらも、登場人物達の心情が繊細に描かれているため、誰にでも親しみ易く読み易い作品になっております。ユーモアに富んだ会話、シリアスの中に温かさと優しさを内包した物語、職場の友人達の、そして家族の苦悩。沢山の思いが詰まった素敵な作品です。

まず、このタイトルにコミカルさを抱いてしまう方も多いでしょう。それは、とんでもない勘違いです！性同一性障害と言う難しいキャラクターを巧みに描き分け、詩編のような美しい描写で見事に世界を飾っています。この作者様は只者ではありません。内容については一切触れません。読めば分かります。この作品の衝撃を、貴方のその目で目撃し、その心で直に感じてください！

　タイトルがコメディーぽいですが、内容はシリアスです。自分のアイデンティティーを考えさせれる、そんなお話です。　誰でも、自分の性格や嗜好などに悩んだことがあるでしょう。わたしもそうでした。　タイトルや突飛な設定に騙されてはいけません。　これは、誰にも言えない悩みを抱えていた男女が出会い、互いに寄り添いあい、成長していく真面目なストーリーです。　ネタバレ禁止なので、うまくレビュー出来ずにもどかしいです。このつたないレビューに惑わされず、是非読んでください。