評価:★★★★★ 4.5
昔々あるところに、『よろず屋』なるものを営む男がいた。男は名を七兵衛と言う。物臭で女好き、放埒にしてヘソ曲がりというたいそう癖の強い男だが、不思議とその腕は立つ。
何故ならその男、元は始末屋。
それもかつて瑞穂国一円を恐怖に陥れた『鬼の七兵衛』なる男の成れの果てなのである。
これはひょんなことから始末屋を挫折した男の噺。
戦国の世をのらりくらりと流れ歩くその売り文句はただ一つ。「あなたの不幸、引き取ります」
※セルバンテスにも掲載中。
話数:全21話
ジャンル:
時代:戦国時代
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
ただひとりの大切なひとを守るためには、誰かの命を奪い続けるしかない。そんな罪深い生き方をしてきた人間が、ある日突然その目的を失ったとしたら。誰かのためだからこそ耐えられた罪は、その人をあっという間に押し潰すに違いない。この物語の主人公は元始末屋、現よろず屋の七兵衛という男。端整な容姿と素晴らしい剣の腕を持ちつつも、物臭で女好きという癖の強い男だ。ある日七兵衛は、禁術の書を探す符術師の女の存在を知る。用心棒を引き受ける七兵衛だったが、七兵衛はとある呪いをその身に抱えていたのだった……。誰もがみな心に傷を抱えている。それでも信じるものがあるから、守りたいものがあるから、前を向き歩き続けるのだ。生きる理由を再び見つけた人は、きっと誰よりも強くなるのだろう。重いだけではなく、ところどころに笑いも散りばめられたストーリー。がっつりと世界観に浸りながら読み進めたい和風ファンタジーです。
なろうの数ある作品の中で、不幸にも埋もれてしまった名作の1つがこの『瑞穂草子』です。舞台、人物、文体、構成……どれをとっても完成度が高いです。高過ぎて敷居まで高くなったことが逆に欠点となったのでしょうか?キャラクター達がそれぞれ課せられた役割を最大限にこなしている様は、動乱の瑞穂国全体に憧憬すら感じてしまいます。思わず、彼らと時代を共にしたくなります。モブですら、ちゃんと仕事をしているのは圧巻です。 飄々とした七兵衛の生きざまは実に豪快かつ爽快で、それを囲む面々も皆魅力的。けれども、七兵衛含め彼らは心にとても大きな傷を背負っていて……。そんな不幸さえも、すっぽりと包み込んでくれる”よろず屋”――長谷川馨にもっともっと触れてほしい。どうして誰もレビューを書かないの?率直にそう思ったので、僭越ながら私が書かせて頂きました。