評価:★★★★☆ 4.2
今年の風邪は質が悪い。感染から発症までがとにかく早くて、その上ひどく高い熱が出る。そんな病に罹ったまま、新納萩人は悪意めいた力により意識を喪失する。次に目を覚ました時彼が居たのは、魔術の横行する見知らぬ世界であった。
罹患中の風邪により意図せぬ惨事を引き起こすも、萩人はその危地をまるでヒーローのような姫君、シンシアに救われる。
そのまま彼女の館で日を送る事となった萩人はシンシア付きの侍女のタルマや近衛兵スクナナといった少女たちと触れ合い、時に己の未熟さを噛み締め、時にお家騒動に巻き込まれ、時にもたらした病禍の大きさを思い知り、やがてただ仰ぎ見て憧れるばかりだったシンシアの、ヒーローの本当を、甘やかな軟禁生活の裏の真意を悟っていく事となる。
そうして時間を重ね、萩人は彼女らと厚誼を深め、やわらかく世界に馴染んでゆく。
だが数々を経て少しだけ大人めき、自らの足で歩き出した彼の前に、全ての禍根とも言うべきものが立ち現れて……。
得たものと経たものの全てでそれを乗り越え、彼は自分の生きていく世界を思い定める。数字の横に※印がついている話にはイラストがあります。ご了承ください。
尚、最終話「病は君から その5」(こちらはgifアニメーション)のシンシアはつまようじ様が、「特別なんかじゃない その1」の三人挿絵は雪麻呂様が、目次下部の「これぞ表紙」と言わんばかりのそろい踏みイラストはなかづま様が描いてくださったものになります。
素晴らしい絵とその使用を快諾くださった御三方に、百万言を尽くしても尽きぬ感謝を!
話数:全104話
ジャンル:ヒーロー・アクション
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:全年齢対象
異世界物として非常に読みやすい作りとなっている。登場人物も比較的少ないながら魅力的であり、人物個人のエピソードがシッカリと確立されているのだ。読んでいて非常に楽しくなるし、一読者としてぜひ番外編があるのならば見たみたい作品でもある。読み始めれば終わりまで手が止まらない作品であることは請け合いだ。読了後、この作品の余韻を是非味わってほしい。
この物語はとてもユニークで魅力的な逆転構造を持っている。設定の妙、というやつだ。主人公が最強または、たくましい。逆である。主人公がヒロインを護る。逆である。主人公が異世界を闊歩する。逆である。むしろ引きこもりである。名作『ドラえもん』は、ドラえもんがのび太を助けてくれるお話だ。『病は君から』では姫様ことシンシアが、このドラえもん役を買って出ている。しかもこちらのドラえもんは至れり尽くせりで、のび太を家から出そうとしない。何故だと思います?あるいは探偵小説でいえば、探偵役の姫様があらゆる証拠を集めてきて、ワトスン役の主人公に懇切丁寧に説明してくれるのだ。ふつう逆だろ。何故だと思います? はい二回言いましたよ大事なところですから。その答えは、あなた自身が読んで確かめてみては、いかがでしょう。
目の前に颯爽と現れたそのヒーローは、なんと「美少女」だった!文章が非常に読みやすくリズミカルで、且つ上手い。ハーレムものとしては健全領域に属するものの、心理描写や情景描写が的確で、ストレスなく読み進められる。ともすれば暗~くなりそうな主題の中で、キャラの明るさや語り口の軽妙さがそれを凌駕しており、なんだか楽しそうにすら感じる。女の子はみんな可愛いのだが、特筆すべきはやはり「姫様」ことシンシア。抜群の美少女でありながら立振舞は王子様のようで、一挙手一投足いちいちカッコイイ。なにをしてもカッコイイ。剣を振り回して暴れることもなく、魔法を乱用するわけでもなく、チートスキルでもない。それでもカッコイイのである!どんなふうにカッコイイのかは、その目で御覧あれ。読了後は、男女問わず、きっと姫様ファンになっていること請け合いである。※第一回オーバーラップ大賞一次選考通過作品です。