評価:★★★★☆ 4.1
山の頂に棲む悪竜は、人間たちに生贄として麗しい乙女を捧げさせていた。
ある年のこと。
生贄としてやって来たのは、「悪竜に物申すために」その魅力を磨いたという、奇妙な乙女だった。
少しばかり興味を持った竜は、乙女と話をしたところ懐かれてしまう。
そして、竜と乙女のゆるい日々が始まった。※自サイトからの転載・加筆修正を行ったものです
※カクヨムにも転載しています
話数:全43話
ジャンル:
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:R15
この作品に目を通した時には、これはやっぱり戦闘もあるのだろうか?と想像していたけれども、中身を開いてみればそうではなかった。 強いて言うならば心温まる物語、だ。 竜と娘のありふれた日常を描きながらも、他にも登場する人物たちの恋の行方や他の竜たちも出てきて、久々にわくわくさせてくれる物語でした。 竜と娘のちょっとした日常、覗いてみませんか?
読み終わったあと、ほのかに温かくて不思議だな、思いました。涙ぐむものでも無く、ゆるさが愛おしさとして迫ってくる。それは私が、幻想世界の神秘さに憧れているからこそ得たのかもしれないなあと感じたのだけれど、人の関係性が思いのほかつよい。理想の距離感を互いに知っている些細なやさしさが見えて、好き。寂しい時に読むと、きっと落ち着ける豊かな作品。
本文より引用。> 竜は深く、深くため息をつく。 炎が混じるその息を、連続後方倒立回転跳びで娘が避けていく。 一体、泣き虫な娘がどうしてここまで逞しくなったのかと、そんな面倒な跳び方よりも走って避けた方が速いのではないかと思って、やめた。 この娘に関しては考えるだけ無駄な気がしたのだ。 たった三年で泣き虫な少女に何があったー?! いろいろ人間が鬱陶しいので忘却魔法を駆使して追い返していたら一三歳で生贄になった美少女が三回も出戻ってきた。 帰れ。帰らない。いろんな意味で事態は悪化した。 竜の鱗で永久温熱鍋敷き作成。 竜の鱗で首飾り。まて。どうやって穴開けた?! 様々な出会いと別れ、涙と笑いが通りすぎ、今でも二人はどこかの山にいるのです。たぶん。 これは種族も性別も生態も超えた家族たちの物語。 極所を隠す謎の煙で目を塞がれる前にそっと覗いてみませんか。
ファンタジーと聞くと、指輪物語のような剣と魔法、勇者たちと魔王の物語をイメージする人は多いだろう。実際、人々が求めるのはそのようなら作品であり、このなろうにもそういう作品は溢れている。それが悪いというわけではない。だが、この作品は違う。この作品が描くのは胸を踊らせる冒険や血を沸かせる戦いではない。ここにあるのは絆と暖かさ、人々の繋がりであり、一人の少女と一匹の竜の優しい物語だ。そんな物語を文章として紡ぐのは、しらたま紅葉先生の心地よい文体。読者の心に染み渡るような優しさが確かにこの作品にはある。もし、冒険と戦いに疲れ、優しさと絆を感じたいのならこの作品を一読することをオススメする。確かに求めるものをかんじることがでかふはずだから。
「私はただ、あなたにもの申すために生贄に名乗り出たのです」三度に渡り生け贄としてやってきた娘は、そう言った。堂々とした物言いだった。一度目と二度目の時とまるで別人な彼女の言動に、山の頂きに住まう悪竜はその目を疑った。「人里に戻らず、あなたと暮らすのって楽しそうじゃないですか?」 キラキラと好奇心で目を輝かせながら、そんなことを言う娘に、悪竜は我が身に迫る危険を感じ取った。 この物語はほのぼのとした物語である。 ほのぼのしていて、ほんのりしていて、温かい。 それこそ紅き竜の、剥がれ落ちた鱗のように。 竜と娘の、なんでもないような掛け合いが、読み手にゆっくりとした時間を届けてくれるでしょう。 夜寝る前、布団に包まりながら読んでみてはどうでしょう?