評価:★★★★★ 4.5
人は裏切るものだと理解していながら、裏切られれば傷がつく。
人には寛容な振りをしながらも、その実、何一つ許せない。
救われない者がいる事を知りながら、救う事を諦める事が出来ない。
差し出した手が偽りだと解っていながら、差し出された手を握り返し涙する。これは私の人生の琥珀。
透明でありながらも酷く濁った証。誰にも理解されなくとも、誰にも同調されなくとも、これは嘘偽りない私の物語。
話数:全17話
ジャンル:その他
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
その他要素
注意:全年齢対象
実験的だが、そこがいい! この作品が好きな人はその実験性をこそ楽しんでいると思う。 主人公の『私』には『私』以外の情報が無い。これは作者が意図的にやっていることで、その狙いは「鏡」である。 わざと主人公を「のっぺらぼう」にすることで読者の数だけ『私』が存在するという仕掛けだ。 これは面白い! 『私』が傍観者の立ち位置であるのも、感情の無い紋切り型の言葉で話すのも、すべて読者のイメージ投影装置という役割を担っているためである。 読者の想像力に挑戦する作品といってもいいかもしれない。 小説というものは多種多様なものだ。だからこそ面白いのだと改めて教えてもらった。
人生の断片を切り取ったような短いエピソードで構成される小説だ。旅人である私と出会う人々の話はどれも奥行きが深く、切実な何かを読む者に問いかけてくる。寓話的な手法が効果的に使われているのも本作の秀逸なところだ。チャペルや海、本、船、舞台、橋、それぞれがなんのアレゴリーなのかを発見する楽しみは読者に譲ろう。そしてモノローグともダイアローグともつかない、旅人である私のアイロニカルな語りが、どのエピソードにもスパイスとしてほどよく効いている。良い小説は読者に人生の切実さをもたらす。本作はそういう作品だ。レベルや勇者に飽きたとき、覗いてみるのも悪くないだろう。