評価:★★★★☆ 4.3
皆瀬空太(みなせ そらた)は同じ高校の霧島千尋(きりしま ちひろ)に、どこか淡い憧れを抱いていた。ふたりは特に恋人らしいことはせず、ただ純粋に他愛もないやり取りをしながら、互いに想いを寄せていた。そんな折、サスペクトパシーなる感染経路不明の感染性精神疾患の流行が報じられる。
その瞬間から、ふたりの変わらないと思っていた日常は、静かに壊れ始めるのだった。サスペクトパシーという、感染性の精神疾患のお話です。パンデミックを扱ったパニックものではなく、怖くて痛々しくて切なくて、いじらしいラブストーリーです。アメブロに重複投稿。「短編21。琥珀」 http://ameblo.jp/fellow-again/entry-12122537147.html
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:感動
展開:未登録
注意:全年齢対象
寄り道のない、切ない恋の物語。五万九千余文字の完結作です。タイトルである『琥珀』。琥珀は樹液の固まった宝石です。本作では琥珀の中に閉じ込められた虫について、「蟻は死んでいる。でもそれが閉じ込められた琥珀は、彼女に愛されているから生きているんだ」と記しています。(本文より抜粋)琥珀に閉じ込められた虫。そのメタファーは何を意味するのでしょうか。少年と少女に襲いかかる厄災。それは「サスペクトパシー」という、感染経路不明の感染性精神疾患です。理不尽な現実に、登場人物の感情が溢れます。『今ある全てが壊れてしまったら』当たり前にあるはずの日常が崩壊するとしたら、どうするか。文章中に隠された問いに、あなたはどのような答えを得るでしょうか。切なく美しい宝石のような文学作品です。まるで樹液のなかの虫を生かすように。ぜひ作品に込められた想いに応えてください。
琥珀。天然樹脂の化石のことです。べっこう飴に似た暖かくも甘い色に、照り映える艶のある宝石です。古代の虫、草木、様々なものが中に閉じ込められ、当時の形を保ったまま産出されることでも知られています。ギリシア語で、「太陽の輝き」。宝石言葉は「大きな愛」……主人公——空太が、そんな琥珀に閉じ込めたかったものとは何だったのでしょう。暖かな宝石に包み込んで欲しかったものとは何だったのでしょう。包み込めたのでしょうか?包み込めたとして、その中身は?「サスペクトパシー」の前に、二人が残そうとしたものは何なのか。この物語を読んで、悲しんでください。そして、「琥珀」が意味しているものが何なのか、感じてください。
これはとある二人の、深い心を描いた、とても辛く、とても悲しく、だけどとても愛おしい、そんな恋物語。心の動きが手に取るようにわかるけれど、その心がとても深くて、考えれば考えるほど底無し沼へと陥っていく感覚を味わいます。これを読んだ人は深い感嘆と共に涙を流すでしょう。しかし、読み終えて感じることは全員違うのです。それがとても、とても大切なことで、けれど悲しいことでもあるということを「感じる」ことができる。時間というのは止められないもので、それでも幸せな時間は止めてしまいたいと願う。当たり前のことだけど、ここから思うことは人によって違うのです。この物語を読んで、感じてください。悔しいけれど、私の語彙ではこの作品の良さを語り尽くすことはできません。ですが1つ言えることがあるとするなら、この作品は読んだ人を魅了する力があるということ。この物語を、貴方自身で感じてみて欲しい。
あとどれくらいの時間この作品を読んでいられるのだろう。気付くとそんな事を考えながら読んでいました。そして読み終わった時、視界がぼやける。そこでもう一度気付く。泣いていたことに…… この作品を読んで、当たり前の大切さや何気ない日常の尊さを再認識させられたと同時に、自分や自分の周りの大切な人に何が起きても、現在、過去、未来をしっかりと受け入れて生きていかなければいけないと感じました。そしてそれは決して簡単な事ではないということも…… ネタバレは避けたいが、多くの方に読んでもらう為、簡単にあらすじを紹介させてもらう。友達以上、恋人未満な空太と千尋。2人は他愛もないやり取りをしながら、互いに想いを寄せていた。いつまでもこのまま2人で一緒に居られると信じて。 そんな時、サスペクトパシーという感染性精神疾患が流行するのだが…… 綺麗なだけの恋愛物とは違うこの作品を私はオススメします。
読んでいただきたい作品のネタばらしをするのはやや気が引けますが、この物語における感染性精神疾患「サスペクトパシー」という病気は大きなキーワードではありません。これは物語を味付けするスパイスでしかなく、空太くんと霧島さん、この二人を中心とした幼なからず、されど大人ではない。だからこそ見えてしまう世界への希望・絶望、そして待っている現実これがこの病気によって大きく彩られます。マクロの世界でどれだけミクロの世界に挑戦できるのか、カフカの変身に出てくる虫を蟻で表現しているものの、実のところその背景に感じる虫ではなく、蟲。それらの欠片に明確な答えが出されていない為、物語に読まされる心地よさ。限りなく完成しきっている文学作品であり、中高生くらいの方に読んでいただきたいと心から思います。
美しく死んでいる。この言葉に私は震えた。この表現が好きで、そして愛おしく思う。文章自体も明晰で、まるで自分自身が主人公になったのではないかと錯角するほどに描写が書き込まれている。小説とはどうあるべきか。この小説を読んで学ばせてもらったと言っても過言ではない。なぜこのような名作が世に出ないのか、本当に不思議でならない。
ヒロインが魅力的に描かれています。いや、ヒロインだけではなくて、物語全体が美しい文章で綴られており、大変読みやすく心に響きます。魅力的なキャラクターを飾りすぎない美文で描かれていて、心を奪われることでしょう。胸を締め付けられるような切なさも、すうと心に入ってきます。個人的な見解として、私はこの物語が好きです。これだけ魅力的に描けるのは素晴らしいことだと思います。
光があるから闇があるように、輝かしい時間があれば、それに比例して苦しい時間がある。甘い時間があれば、苦い時間がある。この話は、そういうお話。一組の男女が織りなす甘く、とても苦い青春模様。簡単に書けば、そうなる。ただ、本作品を読んだら、陳腐な言葉で書いた私に怒りを覚えるだろう。残念ながら、私にこの作品の良さを紹介できる技量がない。それが非常に悔しい。ただ言えることは、感銘を受けることは間違いない。文章を読んでほしい。少しでも良いから、読み進めて欲しい。できれば、最後まで読んで欲しい。そう願ってしまう作品だ。
あなたが好きなものは、俺が嫌いなものかもしれません。俺が好きなものは、あなたが嫌いなものかもしれません。それは、至極当然のことです。違いがあるのが、人です。この作品を読んで、爽快感を得ることは出来ないでしょう。しかし、あなたの中の何かは、きっと変わります。この作品には、それを分からせてくれる力があります。あなたの価値観が、変わるかもしれません。この文に身を委ねてください。琥珀の中に溺れる虫のように、あなたもこの作品に溺れてみてください。そして、愛を、優しさを、心を、人を、知ってください。あなたの周りにいる人が、あなたの知っている範囲での人ではありません。だから、寄り添ってあげてください。自立をすることは当然ですが、辛い時は寄りかかってもいいんです。寄り添いあって、肩を組み合って、未来を見てください。琥珀に光る作品を、あなたの手にーー
青春、の一言。キレイなものを、キレイなままで閉じ込めたくて。でも、なかなかそんなことは出来なくて。今が一番幸せだと思っていても、周りの環境も変わっていくし、何より自分が変わってしまう。ままならない中で、悩んでもがく少年少女たちには美しさすら感じます。青い春を駆け抜けた彼らの恋は、やがて冷えて固まっていくかもしれません。しかし、琥珀のように輝き続けることでしょう。