目が覚めると空にあるはずの太陽は消え、世界は変色していた――
一万年前に太陽が爆発し、光の失われた世界、テラ。
光を得るために人々は二つの種族に転身した。
太陽消失後に現れた妖獣を宿し、妖力を手に入れた人間、妖族。
遺伝子操作により、妖力とよく似た魔力を手に入れた人間、魔族。
妖力と魔力により、人々は太陽のない真っ暗な世界の中でも物を見られるようになった。しかし、それは随分と変色した世界だった。
空は茶色、雲は黒色、山は赤色、炎は緑色といった具合に。
太陽がなくなり、生命が生きられなくなったはずの世界でも人々は何事もなかったように暮らせていた。特別な力を持った聖女アーラの加護により、太陽がなくても大地に植物が育ったからだった。
そのアーラにまつわるある言い伝えがあった。
儀式を行えば普通の人間でも聖女の力を使うことが出来る。但し、術者は禁断の力を使った代償として死の呪いを受ける。
そして、もう一つ信じられていることがあった。
死の呪いを受けた者のみが手にすることの出来るアーラの秘宝、そこに秘められたメッセージを読み解き、神殿の深奥に眠る三つの質問に正しく答えることが出来れば呪いは砕ける、と。妖族の少年であるイグニスはアーラの秘術により記憶を奪われた。
記憶を奪ったのはウサギの妖獣を連れた盲目の少女フロース、強力な呪いの力を持ち、イグニスにも服従の呪いをかけていた。
フロースはある魔族の男の大量虐殺を止めるためには自分が呪われる必要があり、イグニスは呪いの為に一時的に記憶を失うことに同意してくれたのだと説明した。
そんな覚えはないと思いつつ、記憶欲しさにイグニスはフロースに従うことを心に決める。そして、秘宝を得るべく三つの神殿を調査し始めた。死の呪いを受けた盲目の少女フロース。
イグニスの本来の妖獣である烈火の獅子のレグルス。
一時的にイグニスに宿った変わった妖獣、祈りの天使のアルス。
イグニスとフロースと親交の深い元医者の老人、サノー。
強大な力を持つウサギの妖獣、ペンナ。
フロースの動機ともなった謎の殺戮者。
イグニスを取り巻く彼らの発言には嘘と真実が入り混じる。重ねられる嘘を剥ぎ取り真実を見出した時、イグニスは自分の記憶が奪われなければならなかった本当の理由を知る。衝撃の真実に打ちひしがれながらも、イグニスは男の殺戮を止めるべくフロースに従うのだった。
風ウサギの天秤
完結日:2016年4月24日
作者:S_Len
評価:★★★★☆ 4
雰囲気:シリアス
展開:未登録
注意:全年齢対象