評価:★★★★☆ 4.4
これは『座るもののない椅子』を作り続ける男の物語―― イギリスの閑静な町で起きた痛ましい轢き逃げ事件。幼い命を奪ったその事件をきっかけに、家具店店主チェス・ボールドウィンの心は次第に壊れていく。狂気を抱えた男と、《サセックスの椅子職人》を追う元FBI捜査官との間に生まれる奇妙な友情、その結末とは。【2017/01/20:モーニングスター大賞様にて受賞をいただきましたため、他コンテスト(同時応募可のもの)の参加タグを削除いたしました】
話数:全29話
ジャンル:ヒューマンドラマ
登場人物
主人公属性
- 未登録
職業・種族
- 未登録
時代:未登録
舞台:未登録
雰囲気:未登録
展開:未登録
注意:残酷な描写あり
この作品はライトノベルなどではない。まるで重厚な海外のハードカバーだ。事細かな心理描写、美しい情景描写、すべてが作者の筆力の高さを物語る。知性と品性、ユーモアさえ持つ完璧な男、チェス。チェスという男の人生が、作品の背景に流れるクラシック音楽と一体になって、彼の中に少しずつ育っていく狂気の悲しさ、恐ろしさは、読者の心を震えさせる。同時に悔しくて堪らない。なぜこの男が狂気に染まらねばならなかったのだろう。この物語に救いがあったのか。それは分からない。少なくともバーニーやドナといった、チェスを大切に思っていた人にとっては救いなどないであろう。しかしチェス本人はおそらく救われたのだと、私は感じた。人の狂気をすぐそばに感じ、救いとは何なのかと己に問い掛けてしまう。そんな作品だ。
凄い人だ。恐ろしい人だ。作品を大急ぎで読みながらどんな人がこれを書いたんだろうと思い、背中が震えだしそうだった。この作品の文章には一種の気品があって、表現する情景がまるで映画の映像のように脳裏に浮かぶ。作者は、間違いなく社畜という仮面を被った教養の深いプロ作家だ。もしその正体が違ったとしても、この作品は間違いなくセピア色のページに載せられ、図書館の書架に納められる資格を持っている。少なくともオレ様はそう感じた。文章から伝わる一種の「匂い」が特に素晴らしい。作風、雰囲気といってもいいだろうけど「謎」「哀しみ」「思い」がそれぞれ美しい糸で登場人物たちを結び付けている。そして、読んだ後にため息をつかせてしまう。これを読んだ貴方は最後にきっと、アリアのメロディーを心の中で響かせ、美しい物語が遺した余韻に目を伏せるだろう……
ストーリーの骨太さもさることながら、一つ一つのシーンが映像を伴ってイメージできるほどの文章力。そのシーンの全てが美しい作品でした。 小説を読んでいたのに、読了後は映画を見た後のような気分になりました。読者の想像力を引き出す丁度いい描写具合です。 とことんまで磨き上げられた文章は美しく、また物語を通じて流れる音楽は読む者を時に寛がせ、時に不安にさせます。 この作品に出会えたことを感謝します。
本作は二人の男たちを軸に、物語りが進んでいく。知的で高潔なチェスと、彼の良き理解者であり友人のバーニー。彼等の複雑に絡まりながらも、重なり合うことのできなかった物語りである。『怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ。おまえが長く深淵を覗くなら、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ』「椅子を作る人」のENDマークを目にした時、ニーチェの言葉が頭に浮かんだ。 主人公チェスが覗き込んだ深淵の先にあるものとは。彼を狂気へと走らせた怪物とは。読者はバーニーと共に、チェスの思考を辿る旅にでることとなるだろう。彼等の運命は重なることはなかった。しかし絡まった糸の刻印をバーニーは生涯忘れることはないであろう。 さて。貴方はチェスとバーニーの視線の先に、何を見つけるであろうか。ぜひ多くの人々に読んで確かめていただきたい作品である。